第52話 悪魔
翌日。
この日も、朝からロードワークとトレーニングを続け、クタクタになりながらも夕方を迎えていた。
この日の夕食は最終夜ということもあり、施設の敷地内にあるグラウンドで、バーベキューをしていたんだけど、ヨシ君は「いっぱい食えよ」と言いながら、俺の皿に野菜ばかりを置いていた。
「あの… 肉、食いたいんすけど…」
「え? 肉食いたいの? もっと早く言えよ」
そう言いながら肉を置いてくれたのはいいんだけど、脂身ばかりで赤身は置いてくれず。
『俺、虐められてる?』
かなり不安になりながらも食事を終えていた。
宿舎の中に向かう途中でスマホが鳴り、液晶を見ると【親父】の文字。
みんなに置き去りにされながらも、昨日と同じ場所で親父と話し終えた後、すぐにスマホが鳴り、今度は【千尋】と表示される。
うんざりしながら電話に出ると、ヨシ君と智也君、そして凌の3人は、花火を持って中から出てきた。
花火をし始めたのはいいんだけど、風上で花火をやり始めたせいで、風下にいた俺は煙まみれに。
必死に目を開けながら場所を移動したんだけど、その度に3人は移動し、ずっと煙まみれに。
「あっちでやってくれません?」
電話を中断し、思い切って切り出すと、ヨシ君は「あと1本だから!」とだけ。
「いやいや、あと1本でも移動しましょうよ」
「お前が移動しろよ」
ヨシ君に言われ、仕方なく移動し、3人に背を向けたまま電話をしていると、突然、足もとで、いくつもの光の輪が音を立てて激しく回転し、慌てて逃げだしていた。
けど、3人は嬉しそうに俺の足元に向かって、火のついたねずみ花火を投げ続ける。
必死に逃げまどっていると、ねずみ花火は次々に、爆発音とともに弾け飛ぶ。
爆発音が収まった後、3人のいる方を見ると、そこには怒りに満ちた表情をした英雄さんが立っていた。
「お前、一人で何してんだ?」
「え? で、電話を…」
「電話だと? 手ぶらでか?」
「あ、あれ?」
「…準備してリング上がれ」
「へ? なんで?」
「運動不足で寝れねぇなら付き合ってやる。 さっさと準備してこい!!」
勢いよく怒鳴られ、慌てて部屋に戻り、準備をして体育館へ。
慌てて体育館に飛び込むと、英雄さんがリングの上でグローブをはめていたんだけど、昼間以上にボコボコにされる始末。
数十分後には、視界が狭まり、あちこちが痛く、リングに倒れこんでいたんだけど、なぜか清々しさを感じていた。
「もう寝れるか?」
『痛くて寝れそうにないです』
なんてことは言えず、肩で息をしながら上半身を起こし「はい」とだけ。
「横になるなよ。 一晩座って冷やしとけ」
「どうしてですか?」
「血流がよくなるから、体の修復作業が活発化するんだよ。 そのせいで腫れがひどくなって熱が出る。 広瀬で習わなかったのか?」
「何も…」
小声で呟くように言うと、凌がアイスバックを持って体育館に飛び込むなり、俺の顔を冷やし始める。
「英雄さん、あと俺やっときます」
凌の言葉を聞き、英雄さんは宿舎に戻っていたんだけど、凌には言いたいことがありすぎて、何から言えばいいのかわからなかった。
すると凌は、俺の顔を見て笑い、切り出してきた。
「ヨシ君に相当気に入られてるな」
「逆じゃね?」
「ヨシ君、気に入った相手にしかいたずらしないよ。 気に入らない奴は、どんなにムカついても相手にしない」
「あ、そういやさ、英雄さんに隠し子がいるって…」
「絶~~~~~っ対ない! 奥さん以外見えてねぇもん。 俺らの前では悪魔でも、奥さんの前じゃデレデレよ? あ、さっきスマホ落としてたよ?」
凌はそう言いながらスマホを差し出してきたんだけど、千尋の言うことと凌の言うことが全く違うことに、疑問ばかりが浮かび上がっていた。
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