第42話 合宿案内

週明け。


普段とは違うルートを歩き、中田の家の前を通っていたんだけど、少し歩くと中田の後ろ姿が視界に飛び込んだ。


後ろ姿を見た途端、かなりイラっとしたんだけど、自然と中田に駆け寄り、ピタッと隣にくっついて歩き始める。


後ろ姿を見ただけで、かなりイライラするし、腹立たしく思えるのに、隣にいるとどこか落ち着く。


少し歩いていると、中田は足を止め、切り出してきた。


「げ… この前から何なの?」


「通学中」


「あっそ」


『かわいくねぇ女』


そう思いながら歩いていたんだけど、なぜか離れたくない気持ちが大きくなっていく。


黙ったまま歩き、バス停のほうへ向かおうとすると、中田は違うルートを歩き始めていた。


「どこ行くんだよ?」


「通学」


「バス停こっちだろ?」


「徒歩通学」



『徒歩って… 3キロはあるよな? 普段から歩いてるから、あんだけのスタミナがついてるってことか? やっぱり、ボクシング経験者なんじゃね?』


さっきよりも早い速度で歩く中田を追いかけ、同じペースで隣を歩き始めると、中田が切り出してくる。


「バス停過ぎたよ?」


「今日は徒歩通学」


「あっそ」


中田はそれだけ言うと、黙って歩き続け、まったく同じペースで歩き続けていた。



放課後、部室で着替えていると、谷垣さんが部室に現れ、切り出してくる。


「菊沢、ロードワーク行くなら全員連れてけ」


その言葉で部長や畠山君を見ると、みんなは『仕方ない』という感じで一緒にロードワークへ。


公園で千尋を見かけたんだけど、みんながいるせいか、千尋は俺に近づくこともなく、黙ったままその場で立ちすくんでいるだけ。


数分後、ロードワークを終えてボクシング場へ戻ると、みんなはバタバタと倒れこみ、中田は無関心って感じで掃除を続けていた。



薫が巻き直したバンテージを手に取り、中田の前に差し出すと、中田は見て見ぬ振りをするだけ。


その態度にイラっとし、言い放つように切り出した。


「巻け」


「は? 自分でやれば?」


「自分じゃできねーだろ?」


「ふーん。 広瀬ジムってバンテージの巻き方も教えないんだ」


見下したように告げてくる中田の言葉に苛立ち、黙ったまま拳を握り締めていた。


中田は当たり前のように掃除を再開し、苛立ちを抑えきれなくなってくる。


「ムカつく…」


思わず言葉が口からこぼれても、中田は完全に聞こえない振りをし続けるだけ。


その姿にブチっと来てしまい、思わず中田の胸ぐらをつかんだ。


「ムカつくんだよ」


はっきりそう言い切ったんだけど、中田は怯むことなく、俺を闘志むき出しの目で見てくるだけ。


『この目… どっかで…』


思わず手の力を緩めると、谷垣さんが慌てたように駆け寄り、「菊沢! 何してんだ!!」と怒鳴りつけ、俺の手を振り払う。


英雄さんと全く同じ目をしている中田の目に、苛立ちを抑えきれず、ベンチを蹴り飛ばした後、ボクシング場を後にしていた。



『なんなんだよ… 経験者だから? 経験者だから怯まないし、あんな目ができんのか? じゃあ、なんで隠してんの? 全然わかんねぇ…』


考えれば考えるほどわからなくなり、頭を抱えることしかできなかった。



部活を終え、簡単なミーティングをしていると、谷垣さんが合宿案内をみんなに配り始める。


何気なくその紙を見ると【特別コーチ:中田英雄(中田ジム)】と書いてあった。


思わず目を見開いてしまうと、谷垣さんの声が響き渡る。


「特別コーチの中田英雄さんは、元世界チャンピオンで、そこに賞状のある中田義人のお父さんだ。 英雄さんに相談したら、引き受けてくれることになった! みんな、気合い入れて練習するぞ!!」


思わず興奮し、畠山君と喜んでいたんだけど、中田は眉間にしわを寄せ黙り込んでいた。

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