第41話 嘘つき

ヨシ君と呼ばれた人と凌が去った後、自宅の前に行ったんだけど、電気がついていた。


結局、踵を返しながらスマホの電源を切り、駅前にあるネットカフェで一夜を過ごしていた。


朝一に帰宅したんだけど、千尋は当たり前のように俺の布団で寝息を立てていた。


わざと物音を立てながら、ジムに行く準備をしていると、千尋は目を覚まし「どこに行くの?」と切り出してきた。


「広瀬」とだけ答えると、千尋は慌てたように準備をはじめ、俺と一緒に家を後に。


普段なら、電車を乗り継いでいくんだけど、徒歩ルートが分かったおかげで、何も言わないまま、徒歩で広瀬まで。


呼び止める声に耳も傾けず、黙ったまま広瀬に向かい、まっすぐに更衣室へ。


更衣室に行き、4階にあるボクシング場に行くと、見慣れない男性が切り出してきた。


「今日からビギナーコースのトレーナーになった高山です。 よろしくね」


屈託のない笑顔でそう言われ、少しホッとしていたんだけど、高山さんは他のトレーナーに呼ばれ、なぜか怒られていた。


千尋がベンチで見守る中、筋トレばかりをしていると、あっという間に1時間が過ぎ、更衣室へ向かっていたんだけど、高山さんは俺を追いかけ、更衣室の中で切り出してきた。


「今度、中田ジムで交流試合しようと思うんだけど、見学に来ない?」


「中田ジムっすか?」


「そそ。 ここから少し行ったところにあるんだよ。 『2年前に立ち上げた』って言ってたかな? ビギナーコースに通ってる子ら、各曜日から1人ずつピックアップして連れて行こうと思ってるんだ。 『観客が多いほうが盛り上がる』って英雄さんが言ってたんだよね」


「…英雄さん?」


「あ~、高校生じゃ知らないか。 元世界チャンプの中田英雄さん」


「マジっすか!!??」


「ああ。 俺の学生時代の先輩。 で、行く?」


「行きます!! 絶対行きます!!!」


「詳しいこと決まったら、また教えるな。 みんなには内緒にしておいて。 行きたいってやつが殺到したら困るしさ」


高山さんはそう言った後、駆け足で中に戻っていた。



『英雄さんに会える!』


そう思っただけで胸が弾み、自然と笑みが零れていた。



軽く浮足立ちながら帰り道を歩いていると、千尋が駆け寄り「機嫌よさそうね」と切り出してきた。


その瞬間、イラっとしてしまい、足を止めて千尋に切り出した。


「うちに来るのやめてくんない?」


「なんで?」


「迷惑だから。 しばらく距離を置こう」


はっきりとそう言い切ると、千尋はボロボロと涙をこぼし始めたんだけど、そんなことは気にせず、駅に向かって歩き始めていた。



自宅に帰った後、英雄さんのDVDをデッキにセットし、懐かしい映像を食い入るように見ていると、千尋からラインが来ている。


【しばらくってどれくらい? どのくらい我慢すればいいの? 家に行かなければそれでいい? 急に泊まったことに怒ってるんだよね? これから、泊まるときは事前に連絡するようにするから! お願い許して!!】


止まらないラインの通知音を聞いていると、苛立ちと不信感がどんどん膨れ上がるばかりだった。

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