第43話 親子喧嘩

「カズ、今日、休みか?」


昼過ぎに起き、キッチンへ行くと、いきなり親父に切り出された。


「ああ。 なんで?」


「ヨシが学校で智也のスパー相手居ないんだよ。 夕方から、相手してやってくれないか?」


「智也か… いいよ」


それだけ言った後、昼食をとる親父の横でコーヒーを飲んでいた。



夕方になり、準備をしてジムに行くと、智也の隣に座る凌が声をかけてきた。


「お久しぶりっすね」


「そういやそうだな。 新人戦、どうだった?」


「2回戦敗退っす。 確か、ちーの学校のやつが優勝してましたよ。 菊沢ってやつです」


「強いの?」


「まぐれで優勝したって感じっす。 広瀬に通ってるって噂っすよ」


「ふーん。 広瀬じゃ大したことねぇな」


そう言いながら準備を終え、智也とリングに上がった。


最初は適当に流していたんだけど、徐々にお互い火が付き、本気の殴り合いをしていると、ジムのドアが開き、千歳は『怒ってます!』と言わんばかりの態度で親父に歩み寄り、思わず手を止めてしまった。


智也は不安そうに近づき、小声で切り出してくる。


「なんかあったんすかね?」


首をかしげながら二人の様子を見ていると、千歳の怒鳴り声が響き渡る。


「合宿の特別コーチってどういうことよ!」


「話来たから引き受けただけだろ!?」


「また騒ぎになったらどうすんのよ!」


「お前は気にしなくていいだろうが!!」


「そういう問題じゃないっつーの!! 一言くらい相談しろっつってんの!!」


「即決で決めたんだから相談する暇すらねぇだろ!?」


「このクソジジィ…」


「なんだと? 父さんに向かって… リング上がれやぁ!!」


「上等だコラ!!」



「智也、降りるぞ」


ため息をつきながら切り出し、智也とリングを降りたんだけど、千歳と親父は俺らを気にすることなく、リングに上がり、スパーリング開始。


智也は殴り合う二人を見て、呆れたように切り出してきた。


「英雄さん、千歳のこと大好きっすよねぇ…」


「千歳も大概、親父好きだけどな」


「喧嘩するほど仲がいいってやつっすかねぇ」


「かもな」


呆れかえりながらそう言うと、千歳の右ボディと同時に、親父の右ストレートが刺さった途端、千歳はリングに倒れこみ、親父はわき腹を抑えながらうずくまっていた。


「カウンター!? マジか!!」


思わず声を上げ、慌てて千歳に近づくと、千歳の黒目がグルグルと回っている。


「ちー! 大丈夫か!?」


智也と桜の3人で声をかけると、千歳の黒目はピタッと止まり、親父のほうを見て、安心したようにため息をついていた。


『なんつー親子喧嘩なんだよ…』


ゆっくりと起き上がろうとする千歳の背中を支えていると、左のこめかみがどんどん腫れあがっていくのが分かった。


『やりすぎ。 スパーじゃなくてガチ勝負じゃん…』


完全に呆れかえっていると、桜が不安そうに千歳を抱え、リングを降りていた。



数時間後。


千歳はシャワーを浴びた後、部屋に籠ってしまい、自宅のリビングで桜と智也、親父の4人で飲みながら話していたんだけど、桜は呆れながら切り出してくる。


「女の子なんだから手加減しなって」


「ありゃ女じゃない。 女のパンチがあんなに重いはずがない」


「毎日トレーニングしてるからでしょ? 千歳をどうしたいのよ?」


「あいつがキラキラ着けるって言うから…」


「その話、あいつもう忘れてるよ。 なんでトレーニングしてるかなんて、自分でもわかってねぇと思うよ」


ため息交じりに言うと、親父はしょんぼりしてしまい、黙ったまま自室に戻っていた。

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