第38話 迷子

千歳の姿を見るなり、光君は千歳に駆け寄り、「久しぶりだな」と言いながら頭をグシャグシャっと撫でていたんだけど、千歳はキョトーンとするだけ。


挙句、千歳は一言も発しないまま外に出ようとしてしまい、光君は寂しそうな表情をするだけだった。



『あれは失礼すぎるだろ』


慌てて千歳を覆いかけ、足を止めた千歳に切り出した。


「なんだあの塩対応」


「ん? 父さんの友だちでしょ?」


「光君じゃん」


「え? あのチビデブハゲが?」



思わず頭をペシッと叩くと、千歳はキョトーンとした表情で俺を見てくる。


「本人の前で言うんじゃねぇぞ?」


「え? マジで? 顎に風船入ってたよ?」


「だから言うなっつーの! 2年前に結婚して、30キロ太ったんだって。 おまけに仕事のストレスでハゲあがってんだと」


「仕事のストレスでチビになった系?」


「元々、160センチで背は大きくないし、階級もライトフライ級だったんだぞ? 覚えてないのか?」


「すごいでかいイメージがあるんだけど…」


「お前が小さかったからじゃね? とにかく、容姿の事は絶対に触れるな。 わかったな!」


歯を食いしばりながらそう言い切った後、ジムの中に飛び込む。



落ち込んだ表情の光君に駆け寄り、切り出した。


「ごめん。 ちー、気づいてなかった」


「ああ… 俺、だいぶ変わったもんなぁ…」



『昔とは正反対です』


なんてことは言えないまま、ふと時計を見ると時間ギリギリ。


「やべ! 戻んなきゃ!!」


「カズ、また連絡するな」


「ああ。 今度飲みに行こう」


「おう」


光君に手を振り、ジムの階段を駆け下りた後、バイクに跨ったんだけど、エンジンがかからず。


『嘘!? 故障??』


冷や汗をかく中、必死にエンジンをかけようとしたんだけど、エンジンはうんともすんとも言わない。


よく見ると、ガソリンメーターが0の状態で、血の気が引いていくのを感じていた。



急いで店に電話をし、走って店に向かっている途中、困った表情をしている男子高校生に話しかけられた。


「あの、ここってどこっすか? バス寝過ごしたら迷っちゃって… スマホの充電も切れちゃって、わかんなくなっちゃって…」


「D区だよ」


「D区っすか? えっと… 広瀬ジムってどこですかね?」


「広瀬? んと、ここをまっすぐ行くと中田ジムがあるんだけど…」


「中田? え? 中田ジムなんてあるんすか?」


「ああ。 つーか悪い。 俺、急いでんだよね」


「あ、すいません!」


男子高生は俺の説明を聞きながら何度も頷いていたんだけど、その男の子はどこかで見たことがあるような、無いような不思議な感じをしていた。



道案内をした後、男の子は俺にお礼を言い、指示した方向に歩き始める。


『大丈夫かあいつ? 広瀬って言ってたから、どっかのボンボンかな? タクシー呼べばいいのにって、充電切れて呼べないのか』



そう思いながら店に向かい、走り続けていた。

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