第39話 親切

『良かった… やっと広瀬に戻れた…』


安心しながら歩き続け、通いなれた道を歩いていた。



元はと言えば数時間前。


部活を終えた後、バスに乗り、空いていたシートに座ったまではいいんだけど、その瞬間、意識が遠のいてしまい、気が付いたら見知らぬ土地。


反対方向に向かうバス停を求めて歩いていたんだけど、T字路に差し掛かり、広そうな道を選んで歩き続けていた。


広そうだった道は、どんどんその幅を狭めてしまい、気が付くと住宅街。


スマホを頼りにしようと思ったけど、千尋の鬼のような着信とラインのせいで、充電が切れてしまい、成す術がない状態に。


少し歩いていると、走っている男性に気が付き、声をかけた後に道案内をしてもらっていた。


急いでいるにも関わらず、男性は丁寧に道を教えてくれて、『中田ジム』の存在までもを教えてくれていた。



やっとの思いで自宅につき、スマホを充電しながら『中田ジム』について調べようとすると、家のインターホンが鳴り響く。


嫌な予感がしつつも、ドアアイをのぞき込むと、ドアの向こうは真っ暗で、何も見えない。


少しだけドアを開けると、千尋が「びっくりした?」と満面の笑みで切り出してきた。


「何?」


「会いたくなったから来たの」


「俺、これからロードワーク行くから」


「そっか… んじゃ、家で待ってるね」


「帰れ」


それだけ言った後、ドアを閉めたんだけど、インターホンは鳴り止まない。


あまりにも苛立ち、トレーニングウェアに着替えた後、外に飛び出した。


「ランニング?」


千尋は不思議そうに聞いてきたけど、一切答えることなく、黙ったまま家の鍵を閉めてその場を後に。



『オーバーワークだろ…』


そう思いながら走っていると、トレーニングウェアに身を包んだ中田が、一軒家の中から出てきて、足首を回し、走りだしていた。


通りがかりに表札を見ると、そこには『中田』と書いてある。


『あいつの家ってここなんだ…』


そう思いながら走る速度を上げ、中田の横にぴったりとくっつき、ペースを確かめるように走っていた。


「げ」


中田は足を止めて声を上げ、その声にイラっとしながら足を止めて切り出した。


「げってなんだよ?」


「何してんの?」


「俺、ここの近所だし。 ロードワーク中」


「は? 広瀬ジムって遠いじゃん」


「やっぱ経験者なんだろ? もしかして、中田ジムと関係ある?」


中田は「違う」と言った後、勢いよく走りだし、ペースを合わせるように走り続けていた。


「ついてくんな!」


「ロードワーク」


前を向いたままそう言い、黙ったまま中田を追いかけるように走っていると、土手沿いに出てしまった。


『こんなところあったんだ…』


そう思いながら走っていたんだけど、中田は走りなれているのか、一定のペースを保ち、ずっと走り続けている。


土手沿いを抜け、住宅街に入り込んでも、中田は足るペースを落とさず。


とうとう中田に着いていくことができなくなり、壁にもたれかかりながら呼吸を整えていたんだけど、中田は振り返った後に勢いよく走りだし、住宅街の中へ消えていった。


『あいつ… なんつースタミナしてんだよ… つーかここどこ?』


辺りを見回してもどこかわからず、まさかの2度目の迷子。


呼吸を整えながらゆっくりと歩いていると、『中田ジム』と書かれた古そうな看板を見つけた。


日中に会った親切な男性のおかげで、帰宅ルートが分かったんだけど、『中田ジム』が気になってしまう。


けど、普段では考えられないような距離を走り、疲れ切っているし、いきなり見に行くのもどうかと思い、中田ジムの前を素通りし、やっとの思いで帰宅することができていた。

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