第24話 おねだり
「カズ、就職先ってそこのケーキ屋だよな?」
親父にそう切り出され、ため息をついた。
「そこじゃないって。 隣町! 何回言わせんだよ…」
完全に呆れながら食事をとり終え、グラスに氷を入れていた。
「飲むのか?」
「ああ。 なんで?」
「俺も飲もうかな…」
『なんで親父と?』
そう思うと同時に、桜の言葉が頭をよぎる。
【子供と離れるのが嫌でべったりしてる感じするよ?】
『寂しくなるのが嫌なのかねぇ…』
そう思いながら2階に上がり、ウィスキーの瓶を持って1階へ。
親父と二人でリビングに行き、二人で話しながら飲んでいると、いきなり玄関のドアが開き、千歳が息を切らせながらリビングに飛び込んできた。
親父は驚いた表情の後、「…じいさんになんかあったか?」と不安そうに切り出す。
千歳は黙ったまま顔を横に振り、水を飲むなり切り出した。
「スマホ買って。 おじいちゃんたち、二人とも携帯持ってるから、固定電話がないんだよ」
「走ればいいだろ?」
「走ってるときに襲われたらどうすんの?」
「お前が襲われる? バカなことを言うな。 相手が逃げるだろ」
親父は当たり前のようにそう言い切り、千歳は苛立った表情を浮かべている。
『娘の立場…』
そう思いながら水割りを飲んでいると、親父が当然のように切り出した。
「お前を襲うバカはいない!」
「バカはどっちだバカ! 毎朝、おじいちゃんちから6キロ走ってここにきて、土手まで10キロ走らせて、更にまたおじいちゃんちに戻んだよ? 毎日3時起きしてる女子高生なんて聞いたことないわ!!」
「んだとこの…」
「親父! 朝から20キロ強は完全にオーバーワークだし、怪我したら元も子もねぇだろ。 追っかけも居なくなったんだから、こっちに戻してもいいんじゃね?」
俺の言葉を聞いた途端、親父は腕を組んで黙り込み「週末、こっちに戻れ」とだけ。
「スマホも買ってやれって。 相手をケガさせたら大変だからさ」
俺の言葉に、親父は無い頭でジッと何かを考えた後「わかった。 全部週末に済ませるぞ」と。
「戻るなら自転車買って。 汗だくで制服着たくない」
「自転車は甘えだ。 走ってじいさんちに行って着替えればいい」
「えー… んじゃ電車通学したい」
「甘えんじゃねぇ!!」
親父の怒鳴り声の後、千歳は「はぁ!?」と声を上げ、慌てて会話に割り込んだ。
「ちー、自転車って乗ったことあんの?」
「ない」
「乗れんの?」
「…わかんない」
親父は驚いた表情の後「え? お前自転車乗れねぇの?」と聞き、水割りを一口飲んでいた。
「だって、父さんがいつも『走れ』ってバカみたく言ってたじゃん」
「…そうか。 乗せたことなかったか…」
『あれ? スルーした?』
そう思いながら親父を眺めていると、親父は意を決したように切り出した。
「週末まで、朝のトレーニングは免除する。 向こうでストレッチと筋トレはやっとけよ。 こっちに戻ったら、すぐに10キロと筋トレだ。 その後、スマホを買って、戻ったらリング上がれな」
「は? なんでリング?」
「お前、サラっと俺に『バカ』って言ったろ? 明日、学校だから早く帰れ」
千歳は親父の言葉を聞き、固まった表情のまま玄関のほうへ向かっていた。
『週末には忘れてることを祈る。 つーか、千歳が物をねだったのって初めてじゃね? クリスマスだって何にもねだらないから、ニットを買ってやったし… 物欲無さすぎだよなぁ…』
そんな風に思いながら、親父と飲みながら話していた。
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