第22話 卒業
卒業式当日。
卒業式なんかよりも、ジムに通いたい気持ちが大きく、何の感動も寂しさもなかった。
この日は引っ越しがあったため、卒業式後に急いで帰らなければならなかったんだけど…
見覚えのない後輩の女の子に呼び止められ、そのまま校舎裏に呼び出された。
「あの… 入学した時からずっと見てて… ずっと好きでした!」
生まれて初めて、ちゃんとした告白をされたんだけど、『好き』という言葉を聞いた途端、頭の中に千尋のシルエットが浮かんでいた。
「ごめん。 俺、好きな人いるから…」
「彼女ですか?」
「いや、俺の片思い」
「誰よそれ」
背後から声が聞こえ、振り返ると星野が歩み寄ってくる。
「誰でもいいだろ?」
うんざりしながら吐き捨てるように言うと、星野はニヤッとしながら切り出してた。
「嘘ついてまでこの子振るの? 超かわいそうじゃない? 2年間もずっと見てたんだよ? 毎日『菊沢先輩かっこいい!』って騒いでたんだよ? それでも振るの?」
星野が言葉を放つと、その子は目を潤ませ、涙が頬を伝っていた。
「いい加減やめろよ」
「なんで? 2年も無駄に奏介のこと見てたんだよ? 正直に『かわいそう』って言ってるだけじゃん」
星野が言葉を放つたびに、その子は次々に涙を流し、手で涙を拭っていたんだけど、それを見るたびに、星野は嬉しそうな表情をし、傷口を抉るようなことばかりを言い続けていた。
「お前、最低だな」
「本当のことを言ってあげてるだけじゃん。 嘘ついて振るよりも親切だと思うけど?」
「嘘なんかついてねぇよ。 俺は千尋が好きだ」
「はぁ? 誰それ?」
「元世界チャンプの中田英雄の娘。 二人とも俺の大事な人」
はっきりとそう言い切った後、視界に時計が飛び込み、慌ててその場を後にしていた。
数時間後。
引っ越し作業を終え、新しい家で荷物の整理をしていたんだけど、親父のものはほとんどなく、完全に一人暮らし状態に。
4月になるまでの2週間、1Kの狭い家で親父と暮らさなきゃいけないんだけど、親父は仕事で帰りが遅いし、ほとんど一人暮らし状態で、暇をみては縄跳びをし続けるだけの生活。
週末になると、親父がスマホを買ってくれて、ボクシングのトレーニング方法を調べまくっていた。
その時に、『中田英雄』について調べたんだけど、『広瀬ジム所属』以降の記事がなく、期待で胸が膨らむばかり。
『中田千尋』も調べたんだけど、ヒットする記事がなく、情報はほとんど0の状態だった。
たまたま駅で会った薫に、番号を教えたんだけど、薫は羨ましそうな表情を浮かべるだけ。
『広瀬ジムに通う』ことも告げると、薫は「絶対チャンピオンになってね!」となぜか一人で興奮しているようだった。
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