第9話 参観日

数日後。


この日は土曜日だったんだけど、千歳とヨシは土曜参観があるようで、朝から二人並んで学校へ。


その少し後、親父と母さんが出かける準備を始め、親父に切り出した。


「どっか行くん?」


「ヨシとちーの土曜参観」


「止めておいたほうがいいんじゃね? ジムの前だって人がすげぇじゃん」


「試合は先週だったんだぞ? みんな忘れてるはずだ」



『そりゃあんただけだろ…』


そんなことは言えないままでいたんだけど、親父がいきなり切り出してきた。


「カズ、お前も早く支度しろ」


「は? なんで?」


「帰り、飯食って帰るぞ。 昼飯いらないなら良いけど…。 何も無いぞ?」


『昼飯』を盾にされ、渋々ついていくことにしていた。



3人でヨシの教室に入ると、当然のように騒ぎになり、親父のボディガード状態に。


『このために声かけたのか?』と思うくらい、親父はサインや握手を求められ、親父の代わりにそれを断り、ヨシの方を見ると、ヨシはドヤ顔をしながらクラスメイトと話していた。


ヨシの教室にいたのは5分足らず。


『居た』と言うよりは、『居られた』と言ったほうが正しいかもしれない。



一旦、学校を後にし、そのまま帰ろうかと思ったんだけど、親父は「ちーを見る」と言って聞かず、仕方なく母さんと付き合うことにしていた。



少し間を開けてから、千歳の教室に行ったんだけど、そこでも騒ぎになってしまい、担任は授業を放り出して親父の元へ来てしまい、担任と握手をする始末。


ふと千歳の方を見ると、千歳は『我関せず』と言った感じで、必死にノートを取っていた。


『あいつ… 友達居ないのか?』


少し不安になっていると、校長までもが来てしまい、教室内は完全にパニック状態に。


「迷惑だから帰ろう」


母さんの言葉に同意し、嫌がる親父を引き連れて教室を後にすると、廊下に見覚えのある男の子が立っていた。


男の子は親父を見るなり「英雄さん!!」と声をかけていたんだけど、親父は「おう!」と、右手を上げながら言うだけ。


『完全に忘れてやがる… ミット打ちまでしたっていうのに、かわいそうな奴…』


軽く同情しながらその場を離れ、結局、自宅に帰っていた。



ヨシと千歳が帰った後、昼飯を食べに行ったんだけど、友達の話をするヨシとは反対に、千歳は黙ったまま食べているだけ。


親父はそんなことを気にせず、ヨシと話しながら食べ進めていた。



昼食をとった後、4人でジムに行き、少し休んだ後にトレーニングを開始したんだけど、入り口の前には昨日よりも多い人がいて、黄色い声も倍以上に。


土曜日だし、大半は仕事や学校が休みなんだろうけど、親父と光君が少し動いただけで起きる黄色い声や低い声に、かなりうんざりしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る