Goumon-1グランプリの優勝者

ちびまるフォイ

肉を切らせて骨を断つ

G(拷問)-1グランプリの会場には古今東西の拷問のプロが集まっていた。


『みなさま、長らくおまたせしました! G-1グランプリ開催です!』


トーナメント式に勝ち上がっていくグランプリ。

優勝者にはいくらでも拷問できる人造人間がプレゼントされる。


「あれが手に入れば、毎日好きなときに好きなだけ拷問ができる……!!」


拷問プロには喉から手が出るほどにほしい一品。

かならず優勝して持ち帰ってやる。


『それでは第1拷問試合、両者ステージにあがってください!』


垂れ幕を抜けてステージの中央へと上がると、反対側から別の拷問プロがやってきた。

ステージには拷問受け役の人間が2人セッティングされている。


『お互いに思い思いの方法で拷問し、先にこちらの金庫を開けたほうが勝利です!』


戦いのゴングが鳴らされた。

お互いにそれぞれあてがわれた拷問対象へと向き直る。


相手は持ち前の電気ムチをビシビシと打ち受けながら大声を叫んでいた。


「オラ! 早く金庫の番号を教えろ!!」


その様子を見て勝利を確信した。

肉体的な拷問なんてナンセンス。


実際に痛みに耐えられる拷問対象はむしろ楽しそうに笑みすら浮かべていた。


「さて、これから拷問をはじめるわけだけど痛みには強い?」


「へっ。当然だ。こっちは拷問に耐え抜けば賞金がもらえる。

 腕の一本失おうが、賞金が手に入れば十分お釣りがくる」


蛇口にホースを取り付けると、ゆるい水量で拷問対象に水責めを始めた。


「がばばばっ……げほげほっ!!」


「金庫の番号は?」

「誰が話……ごぼごぼごぼ!」


「金庫の番号は?」

「ちょっ……待っ……」


「番号は?」

「ごぼごぼごぼ!」


大量の水で何度もテキトーなタイミングで止めたと思ったら続けたり。

不規則に押し寄せる開放と苦痛に拷問対象は目がチカチカしはじめた。


冷たい水は体温をどんどん奪って体中のけいれんが止まらなくなる。


「がちがちがち……き、き、金庫の番号が……し、知りたいんだよな……?」


「いやもういいや。俺がここに来たのは拷問できる理由づくりだし」


「え?」


「優勝できるかどうかより、好きなだけ拷問できればそれでいいかなって」


「うそ……」


作戦通り拷問対象を絶望させることができた。

拷問には精神的苦痛と肉体的な苦痛のあわせ技がマスト。


金庫の開け方を教えようが教えまいが、

この拷問が続くとなったらもはやただの地獄。


「じゃ、いきまーす」


すでに何度も嘔吐を繰り返し、衰弱しきっている拷問対象の口にホースを突っ込む。

水責めは相手に話す機会を与えにくくするので、「金庫の開け方なんかより拷問したい」と強く意識付けられる。


「ごぼごぼごぼ……がば! げぼがばば!」


「あ、なにか言った?」


「話す! 金庫を……ごぼぼ! 話っ……ぷぁっ! 止めてっ……」


ついに口を割らせることができた。

相手より金庫を先に開けて1回戦突破。


「ようし、この調子で優勝まで一気にいくぞ!!」


さまざまな拷問のプロを退けて決勝戦へと勝ち進んだ。

これに勝てばG-1グランプリで優勝。負けるわけにいかない。


『それでは決勝戦! 選手入場!!』


ステージに2人の拷問のプロが入ってきた。

相手の身なりを見るに、専用の拷問器具は持っていない。


「なるほど……精神的な拷問タイプ、ね……」


ステージ上には椅子に縛り付けられた拷問対象が運び込まれてくる。


『拷問により先に合言葉を引き出したほうが勝利です!

 優勝者には大会主催者から商品が贈られます! はじめ!』


最後の戦いがはじまった。

今度の拷問対象はこれまでと明らかに違った。


目には強い意思を感じ、体は鍛え上げられている。

体にはいくつもの傷跡が残り拷問耐性ができているとわかる。


「これは難関だ……!」


1回戦のように水責めでどうこうできる相手ではない。

相手も同じように悩んでいるのか拷問をはじめていない。


手をこまねいていると、拷問対象は挑発的にこちらを見る。


「どうした? 拷問をしないのか?

 もっとも、私はどんな拷問を受けてもけして屈することはない」


「ぐぬぬ……」


いくらシミュレーションしても口を割らせるイメージが思いつかない。

シミュレーション。


「そうだ! あの手があった!!」


いったんステージから出て、会場のバックヤードへ向かう。

用意してきた拷問グッズのうち一度も使ったことのない機械を引っ張り出す。

スイッチを入れるとホログラムが出来上がった。


「これを使うか……!」


拷問対象の素性や経歴を調べ上げ、家族構成を割り出す。

ホログラムを調整してからまたステージに戻った。


連れてきたホログラムを見て初めて拷問対象は表情を変えた。


「お前!! 彼女をどうする気だ!!」


「どうすると思う?」


あえて教えないことでこちらに主導権があることを意識させる。

ホログラムだとわかるのは自分だけ。


拷問対象は椅子に縛られて映像しか見えていないから、

このリアルなホログラムが実物に見えるだろう。


「彼女には手を出さないでくれ! G-1グランプリとは無関係だろ!!」


「関係があるかないかは俺が判断することだから」


ホログラムの首筋にのこぎりをあてがう。

少しでも触れてしまえば映像が乱れてバレてしまう。


「どうする? 彼女がどうなるかはお前の選択しだいだ」


「あ……ああ……」


「仮に口を割らなかったとしても、彼女の次は誰になるかな?

 お前には妹もいるそうじゃないか」



「わかった! 何もかも話す! だから彼女や私の家族に手を出さないでくれーー!!」


やっと拷問対象が折れて合言葉を話した。

ホログラムを傷つけることはできないので、身内脅しはかなりギリギリだった。

タネがバレれば一気にこちらが焦っていると悟られるリスクもあった。


『決勝戦が決着しました!! 優勝したのは、○○選手ーー!!』


高々と俺の腕が掲げられた。

対戦相手はというと、戦意喪失したのかなにも拷問していなかった。

ただただ恨めしそうに優勝賞品の方だけを見ていた。


「それでは、優勝の賞状授与式へと移りたいと思います」


「え、先に優勝賞品じゃないんですか」

「それは賞状のあとです」


G-1グランプリ主催者が登壇して長くありがたいお言葉を述べられた。

いろいろ言っていた気がするが早く賞品が欲しくて頭に残らない。


中学生の卒業式のようにカチカチな動作で賞状を受け取った。

G-1グランプリはこれにて閉会となった。


「それじゃ早く賞品を!」


「わかりましたよ。こちらへどうぞ」


会場の奥へと案内される。

念願の拷問人間が手に入ると思うとワクワクが止まらない。


扉を抜けた先に待っていたのは、壁に寄りかかっているガードマンだった。

拷問人間が収められているケースは空っぽになっていた。


大会スタッフはガードマンにかけよる。


「おい、いったい何があった!? どうして賞品がないんだ!?」


ガードマンは申し訳無さそうに答えた。



「すみません……我々は拷問耐性ないんで……開け方喋っちゃいました……」



監視カメラには俺が賞状を受け取っている時間帯に、手際よくガードマンを拷問する決勝戦の相手が映っていた。

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