04.竹林七草「ガタン ――ギィ、ギィ(試し読み版)」
「――蒼唯先輩」
私の口からポロリとその名前が出た瞬間、
ガタン
まるで返事をするように、立ち上がった私の背後のベンチが音を立てて倒れた。
三人がけの、どう考えたって勝手に倒れるわけなんてない横長のベンチが、誰かに蹴り倒されたかのように独りでに横倒しとなって転んだのだ。
そして、
――――ギィ、ギィ
あの音が聞こえてくる。
同時に私の背後の、銀杏の木の枝を見た陽菜の顔が斜めに歪んだ。瞼が裂けそうなほどに見開かれ、白目が一瞬で血走っていく。
首を激しく左右に振って、両手を頭の横に添え、
「――――いやぁぁぁぁぁっっっッッ‼」
喉が破れないのが不思議なほどの絶叫がほとばしった。
次の瞬間、ベンチから立ち上がるなり取るものもとらず、脱兎のごとく逃げ出す。
レンガで囲った花壇に躓いて陽菜が転んだ。けどそれでも「ひぃ、ひぃ」という寸詰まった悲鳴を漏らしながら、私から離れるべく逃げることを止めない。よろめく足で、一度として私の方を振り向くことなんてなく、陽菜ががむしゃらに逃げていく。
やがて中庭を出て校舎の陰にその姿が隠れるまで、私はただただ唖然と陽菜を見送っていた。
――――ギィ、ギィ
弦の軋む音は、私の背後から鳴り止まない。
自分でも顔から血の気が引いていることがわかる。
陽菜が私の背後に何を見たのか、そんなものは考えたくもない。
だけど――私は勇気を出して振り向いた。
――――ギィ、ギィ
一迅の風が吹き、長くはない私の髪を巻き上げた。
同時に、倒れたベンチの真上にある銀杏の木の枝が、風を受けて横になびいた。
でも私の腕より太い枝が一本ばかり、風の向きに逆らって、まるで重い何かをぶら下げているかのように激しく真下に撓んでいた。
……あぁ、そこにいるのか。
「蒼唯、先輩」
――――ギィ、ギィ ――――ギィ、ギィ
私がその名を呼ぶと、ほんの少しだけ弦の軋む音が大きくなったような、そんな気がした。
(※この続きは12月30日発売の合同誌本編でお楽しみください)
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