ユタカくん 6
「何、落ち込んでんじゃん」
施設に戻ると、相部屋のケイスケがすでに風呂を済ませ、二段ベッドの上の段から顔を覗かせた。骨だけで構成された手で僕の頭をかちゃかちゃと軽く叩く。
「よくわかるね」
「そりゃあ、俺たち『理科室コンビ』だからな。下手な恋人同士よりお互いのことよくわかってないとだろ」
「僕はけーちゃんの事なんにも知らんけど」
そんなぁ、と大袈裟に肩を落とすケイスケに、百均で買ったアヒルを渡した。
理科室コンビ、とは施設の寮の一つである『
「なにこれ」
「おみやげ買ってこいって言ってたじゃん」
「言ったけどさぁ」
袋にがさがさとまとめられたアヒルのおもちゃを一つずつベッドのふちに並べながら、ケイスケが不満げな声を出した。
「そんで、何があったの?お兄さんに話してごらん」
「お兄さんって、産まれた日は3日違いだろ」
ケイスケは別の高校へ通う、臨時講師だった。つい最近、
「僕じゃなくて、友達の悩み」
「あらやだ、ユタカに友達が」
「友達くらい出来るよ。失礼だな」
べぅ、とケイスケがアヒルを鳴らした。
「大人がさ、子供に手を出すのってまずい事かな。歳の差って関係ないと思える?」
「まさか、犯罪だろ」
「本気の恋でも?」
本気の恋、かどうかはわからない。綿貫さんにとってはそうなのだろう。でも、相手にとっては?──何にせよ、ただの憶測でしかない。僕が、他人が考えたところで、その答えを綿貫さんに伝えるのは、出過ぎた真似のような気もする。
「本気の恋でも、だよ。軽蔑するね」
ケイスケが、アヒルのおもちゃの首をもいで、僕に投げた。
「そのまま大人になって、身体が取り返しのつかない事になっていたって知ったら、喜ぶと思うか?」
アヒルの胴体を口に入れ、ケイスケが言う。白い歯に挟まったアヒルの胴体からは、もう音が鳴らないようだ。ふしゅ、と間の抜けた音がケイスケの口から聞こえた。
「そんなの、怖いだけだろ。よっぽどの馬鹿じゃなければ、相手が自分を傷付けただけだって、いずれ気付くんだ」
お前は間違えるなよ、とケイスケが真面目な声で言った。買ってきたおもちゃに、生きているアヒルは混ざってないらしい。
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