ヤスハルさん  13

「はは、お前の愛しの少年も、結局は同類だったわけだ」

葛西は可笑しくてたまらない、と言った様子で嗤いました。背後にはやはり、こちらをじとりと睨む奥様が控えております。

「そんなもんだ。お前はただの美しい人形で、その扱い方一つにお前は一喜一憂しているだけだ。だから人間ぶるなと教えてやったのに」

じゅう、と私の頬にタバコを押し付け、火が消えてもねちねちと指を離さないのを見るに、酷く苛立っているようでした。透明な中身を覗き見るように顔を近付け、低く重い声で葛西は言いました。

「まさか、その愛情とやらのために足を洗いたい、なんて言うんじゃないだろうな」

私は、びりびりと肌を鳴らす重く低い声に威圧されておりましたが、その凶悪な表情の中に、幼い虚栄心を見て、どこか少し安心するところもあったように思えます。

「そうだとしたら、どうするのです?ここに閉じ込めて出さないおつもりで?」

「まさか、美術品は人に見せてこそだろう。次の展示では首をもいで、が喚くのを含めての作品なんぞ、いいかもしれないな」

「いかにも三流作家らしい、安っぽい表現ですこと」

傷の舐め合い。葛西と私に共通するところは、表出させなければ耐えきれない、何かへの求愛だったのかも知れません。葛西は立ち上がり、私の首を締め付け、押し倒しました。

「何も、会いたくないなんて言ってないでしょう」

「少し可愛がられたくらいで随分と偉くなったようじゃないか」

ちら、と奥様の方を目だけで見ると、狼狽する様子もなく、その光景を死んだ目で眺めていたのでした。その視線こそを、葛西は芸術として愛しているのだと、奥様も、葛西自身も恐らくは知らなかったのです。その場の全員があらぬ方向へ向けている、薄汚れた情愛の澱みの中で、歯を食いしばり力を込める葛西の、虚しい唸りばかりが静かに響きました。


 葛西は、やがて首を力一杯に締める手を放し、はあ、とため息をつきました。

「けれど、お前のそういう、恥ずかしげもなく自慢するはしたなさが、嫌いじゃあないよ」

追って連絡する、と言って葛西は書斎から出て行きました。奥様は先程と少しも変わらない表情でそこにあります。頬にこびり付いたヤニを擦り落とした私は、寂しい気持ちでその場を後にしました。

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