ヤスハルさん 10
ヤスハルさんの展示が始まるらしい。去年の夏までは一年も平気で待つ事ができたのに、半月待つことに耐えかねて、今は、毎日会わないとどこか足元が
ヤスハルさんが展示されている画廊は地下にある。手摺りがガタついている急な階段は、もう何度も来ているが毎回不安を誘う。平日だからだろうか、行列こそなかったが、狭い画廊の中にはほどほどに人が入っていた。薄暗い室内には賛美歌が流れ、宗教画を揶揄するようなグロテスクな絵画や彫刻が並んでいる。その部屋の奥の壁際、淡い光の中に、ヤスハルさんはいた。リンゴを指先でもてあそび、食べるか食べないか、あるいは、食べてしまった言い訳を考えているような、憂いを含んだ表情をしている。家で眠っている時と違い、呼吸をしている様子はない。本当に、ガラスの彫刻として、その空間に存在していた。裸のヤスハルさんには、服というにはほとんど意味を為さない薄い布と、内臓のような、気味の悪い色の蛇が絡まっている。光は時々角度を変え、新橋色のヤスハルさんを通し
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