マイちゃん  3

「そう……」

マイは何故か、やや残念そうに言うと、ふい、とそっぽを向いて拗ねたように膝を抱えた。

「マイ、役に立たないね」

身体がダッチワイフである事に関係しているのだろうか。消え入りそうな、泣き声にも似た小さい声にどうにかフォローをしたいと思うが、その言葉は見付からない。実際、本来の目的には使えないわけだし、だからといって、君の身体にはそういう価値はある、と言うのも下衆な話だろう。そもそも子供がそんな風に考える事自体、どこか間違っている気がするが、その感覚が正しいものかもわからなかった。マンガなんかでは、例えば、『初めてヒトとして見てくれた』みたいな、そういう言葉が出てくる展開だ。それで、事務的に対応していたアンドロイド的なキャラが人間の感情を持ち、フラグが立って、と安易な妄想が脳を通り過ぎては消えていく。結局そういうことを求めている自分に、本日何度目かのドン引きだ。

「マイちゃん……」

震える肩に手を触れ、顔を覗き見る。


 こちらを見返す、別売りのきらきらしたドールアイに涙はなく、嘘泣きだと気付くまで数秒の時間差があった。

「……なぁんてね」

勢いよく首元に抱き付いたマイは、そのまま押し倒すように全身で飛び込んだ。

「えっ?あっ、あぶ、うおおぉっ!?」

机の上の物をひっくり返しながら盛大に床に転げた俺を、マイはけらけらと笑いながら見下ろしていた。

「マイの初めて、オジサンにあげるね」

こだわりの超軟質シリコン製ふにふにリップを売り文句にしているだけあって、あまりにも心許ない、柔らかい唇だった。

「ん、んん!?」

一瞬の出来事で、気付いた時には何事もなかったかのようにマイが笑っていた。

「優しい人は好きよ。マイのこと、たくさん可愛がってね。ずーっとね」

マイの冷たく、重さのある体温が服越しに遅れて伝わってくる。小学生とキスしてしまった、という後ろめたさが、マイの嬉しそうな様子に掻き消されていった。こうやって犯罪者は増えるのか、と嫌な納得をしてしまう。理性を保たねば。大人として。抱き締めたくなるサイズ感にぐるぐると目が回るような魅力を感じながらも、必死に欲望を抑え、自分のズボンをぎゅっと握る。

「だ、大事に、しますぅ……」

床に放り投げられたスマホは、独身男の薄暗い部屋を煌々と照らしていた──。

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