マイちゃん  1

 人としてやってはいけない事に手を出した、という自覚はある。倫理的に不味いというのはわかっているけれど、どうしても、やってみたくなってしまったのだ。今、俺の目の前には、柔らかい女の子の形をした『せいぶつ』が、すうすうと寝息を立てている。下心丸出しで、半ば冗談で試してみただけで、まさか一発で動き出してしまうとは思わなかったのだ。

「ど、どうしよう……色々申請しないと……マズいよなぁ……」

ダッチワイフという呼び方は、今は古いのだろうか。小学生の背格好のは、ボーナスと貯金を全部使い切っただけあって細部まで細かく作り込んであり、見ているだけで罪悪感が湧いてしまうほど精巧だった。ひんやりとしたシリコン製の肌の下には、硬さの異なる素材で作られた骨まで入っていて、見た目だけではなく触り心地までリアルに再現してあるらしい。実物の小学生を触ったことは数えるほどしかない(無論、合法的に手を握った程度である)が、理想通り、いやそれ以上のクオリティだった。


 用意していた子供用の、白地に小さなリボンの付いたパンツを片手に足を持ち上げると、薄桃色に塗装された、その、それが、ちらりと見えてしまった。触りたいという気持ちと、そんな自分への嫌悪感の板挟みで具合が悪くなってくる。

「……ちょ、ちょっとだけ」

恐る恐る、そこに触れたつもりが、ふに、と割と強く触ってしまい、慌てて手を離す。イメージしていた感触より柔らかい気がする。起きなかったのをいい事に、もう一度触ろうとした、その時。

「んっ……」

「わぁ!?ご、ごめんっ!!」

突然の大声にびく、と反応した少女が目を開いた。まだ下着すら穿かせていない。だらだらと汗をかきながら無言の時が過ぎる。


「……マイ、はだかんぼうで寝ちゃったの?」

マイ、というのは名前だろうか。何せ、せいぶつが目覚める瞬間というものに初めて立ち会っているのだ。どういう仕組みで動いているのか、知識や記憶は何から出来ているのか、などと大昔に授業で習った内容を、どうにか思い出そうとする。パンツを握ったまま。

「ねえ、おじさん。お洋服着ていい?」

握りしめたパンツをいぶかしげに見ながらマイが言った。

「う、うん!いいよ!」

何がいいよ、だ。心の中でツッコミを入れながら、パンツと、この日のために揃えておいた子供服をばさばさとビニール袋から出して渡す。自分で着てくれるならそれに越したことはない。あっち向いて、と言う声に従い壁側を向いた俺は、手元のスマホでせいぶつについて検索した。


 どうやらヒト型のせいぶつは、初めてせいぶつとして目覚めた時点で、名前と、ある程度の知識はある、という事以外は何も解明されていないらしい。集合的無意識、とか、魂の持つオド、などといった、オカルトじみた様々な言葉で説明はされているが、そのどれもが根拠に乏しく、憶測の域を出ないようだ。今後の参考になりそうなページを片っ端からブックマークに入れながら待っていると、もーいいよー、と声が聞こえた。

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