第9話 白魔導師協会長
コンコンコンコン
「何か御用でしょうか?」
誰かが来た――――と言ってもトリシャが対応してくれるからいいけど……おっ?
誰か入って来たみたい……ってっ!?
うわ~んっ、朝から会いたくはない爺様一名。
「――――コホンっ、そうあからさまに嫌な顔をなさるものじゃありませんぞ。アルレイシア・マギ」
えーっとこのアルレイシア・マギって言うのは正式な賢者の呼び方なのだ。
ちょっと面倒くさいんだけれど何でも昔からの習わしらしい。
私は単にフェティーでいいやって思うんだけれどもこの
色々名前があるのは正直に言って自分でもややこしい。
因みにこの爺様、ほぼほぼ禿っ面でよく見ると薄っすらモヤモヤ~って頭頂部周囲に白髪が生えてんだけれどね。
黒い瞳は眼光鋭く……ってもしかしなくとも髪の毛の代わりとでも言うのかな?
白い顎髭はめっちゃ長くて細い三つ編みをしている小柄な爺様は、この建物――――。
なんと私の次に偉い人だったりする。
それとね、名前がまた笑わせてくれるんよ。
この世界じゃ笑えないけれど日本人ならればちょっと笑っちゃうわね。
ヨハン・タイルバリン。
初めてタイルバリンって紹介された時、思わず日本語読みでタイル張り……ん?って頭ん中で想像してぶははは……って本人を前にして大笑いをしたもんだ。
まぁね、相手はまだ当時5歳の少女でしょ?
笑い飛ばしても怒るに怒れないし、またそれをいい事に私ってば禿頭をバンバン叩くわなけなしの髪を引っ張ったり、それと一度だけ立派に伸ばしている顎鬚を爺様がうとうと寝ている所を忍んで剃った事もあったっけ。
うーん、数え上げればキリがないくらい、我ながらエグイ悪戯をしまくったわね。
まあこの爺様と前の賢者様であられたクラウス・マギは私の白魔導の師でもある。
幼い頃から膨大な魔力が秘められた私を心配した両親が、二人へ相談した結果私を白魔導師として育てる事になったとか。
クラウス・マギは本当に穏やかでめっちゃダンディーなおじさま。
あの頃で優に80歳は通り越していらっしゃるご高齢なんだけれど、元々貴族出身の為なのか、本当に物腰が優雅で大人な男性で私の初恋かも……と思っちゃうくらい素敵な御方だった。
何時もお茶をしながら白魔導の事、世界はマナに満ち溢れている事。
ううん、それ以上に色んなお話を聞いたわ。
めっちゃ幸せな時間――――。
ヨハンもちょっと口
二人共私を実の孫の様に接してくれてるもんね。
そうしてクラウス・マギが寿命で亡くなられた時――――若過ぎるマギの誕生に正直反対もあった。
ぶっちゃけ私はどうでもよかったよ。
公女って肩書きさえも重いんだからさ。
だけどヨハンはあの頃一番次のマギに相応しいって言われていた筈なのに、マギの資格を受け継いだのは私だってちゃんと証言をしてくれて、おまけに後見人にまでなってくれたんだよね。
良い爺様だと思うけれど後見人になったのはきっと私が羽目を外し過ぎないかどうかを見張る為だよねっ。
99.9%そうに違いないっ!!
だって何時も何時もあーだこうだと言うんだよね。
あ、また顎髭剃っちゃおう……かな?
「それで、今日は何を注意されるのかしら。
にこっと笑顔で嫌味半分を含めて聞いてみる。
ふっふ、全く全く〰〰〰〰って、もう既にこめかみがピクピクしているよヨハン。
「アルレイシア・マギ。協会内や正式な場において服装を正しく着用なさるようにと、私はこれまで何度も申しあげましたぞっ」
「だってアレを全部着こんでしまったらめっちゃ重いし肩も凝っちゃうし、それに誰だかわからないでしょう」
そう、はっきり言って面倒臭いのだ。
長年半袖白衣でウロウロ……いやいやお仕事をしてきた私にはっ!!
「だっても明後日もありませんぞっ。第一あの服装は貴女の身の安全を護る為に作られたものですぞっ!!」
それを面倒臭いとは何時も何時も……。
あちゃ〰〰〰〰マジで怒っている。
あらら、お説教が長くなりそう。
トリシャもサムもこういう時は必ずと言っていい程知らんぷりなんて決め込むしなぁ。
ほんと頼りにならない。
「解っておられますか、世界各国は年若い貴女を常に狙っておるのですぞ!! 幸い貴女の顔はまだ知られておりません。しかしこの協会には数多の国より勉学の為に来ている者も多い。どうかこの爺を安心させる為にも成人まではあの服装でお過ごし下され」
んっ、トリシャよ、そこは頷かないで!!
ふと何気に目の前の爺様の顎鬚を見た。
今日は顎鬚三つ編みにピンクのリボン……ってちょっと可愛い?
うーんじゃあ仕方ないかぁ。
「解ったわよ。ここでの仕事と正式な会議ではちゃんとするわよ。じゃあねっ」
うんうんと喜んで頷いたヨハン……はっとして顔を上げれば私とトリシャ、サムの三人はもう既に扉の前にいた。
「何処へっ!! 執務はっ!?」
とヨハンが叫ぶのと同時に呪文を呟く。
「
そして扉を開ける前に伝えておいた。
「出された書類は全部済ませたから外へ行ってくるわ」
ぱたん――――。
きっと扉の向こうでヨハンが今頃ぎゃんぎゃんと怒っているに違いない。
ま、それはそれでよい事にしておこう。
さあて気分転換っっ。
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