第8話 賢者様の辛い思い出 Ⅱ
うーん、こっちで言う所の新型インフルエンザみたいな流行り病がさ、周辺各国……それは勿論このラインフェルトももれなく参加で大流行してしまった。
そして皆、国をあげて治療に取り掛かったわ。
だけど私はここぞとばかり思い至る訳なのですよ。
やっぱ原点に戻って
あぁ本当にNsをやっていて良かったとも思ったよ。
でなければまだ終息出来ていたかなんてわからないものね。
先ず最初に行ったのは手荒い。
何か行動をした後には直ぐに手を、それもしっかりと洗う事。
次に病に感染した患者の隔離。
特にその隔離とされる病室の出入りには細心の注意と感染予防の徹底。
そして衛生面の保持。
これは病で苦しむ患者さんのベッドや枕のシーツ交換は魔法でチョチョイのチョイ……かな。
いやもう何と言うか前世では
汗はもうブルブルだし、静電気は半端ないしビリっ……なんて可愛いものじゃあないもの。
転生して魔法でシーツ交換出来る幸せを本当に感じ入ってしまうっ。
そしてもう一つはマスクだよっ。
マ・ス・クっ!!
勿論この世界にマスクなんてモノは最初から存在すらしなかったよ。
だーかーらっ、作っちゃったのよねぇマスクをっ。
然も白魔法の織り込み式だからウイルス除去率はなんと――――100%だよっっ!!
耳もちゃんと長時間かけていても痛くない様に工夫してるし、通気性も良く息も籠らないし暑くもない。
会話もスムーズで装着した感全くなしって言う優れモノだよっ。
だからマスクは飛ぶ様に言うかバカ売れだね。
うん、そしてこれは儲かった。
ウハウハだね。
でも、そこはちゃんと安価設定にはしたよ。
コンセプトは誰でも手軽に着けて貰う為にね。
安いけれど国単位にポンポンと買ってくれるから儲かっただけ。
それにそれは周辺国へ死の危険も顧みずに飛んで行ってくれた多くの
そうしている間に治療法も見つかって流行り病も何とか終息したの。
これだけの世界規模の大流行なのに死亡者は一人……だけ。
世間では流石史上最年少の賢者様よと褒め称えられはしたけれど、ちっとも嬉しくなんかなかった。
ううん、反対に悔しかった。
そしてめっちゃ辛かった。
自分はなんて脳なしで役立たずなんだ――――って思い知ったわ。
だって、そのたった一人を救えなかったんだよ。
そうそのたった一人の患者さんはこのラインフェルト公国前大公殿下。
ゼン・アイリッシュ・ラインフェルト。
私の大切で大好きな父様っっ!!
何時も大らかで笑顔の絶えない父様。
私は物心のついた頃にはもう既に前世の記憶があって、同じ年の子供とはアホくさくて一緒に遊ぶ事を善しとしなかったんだ。
だから当然私には友達はいない。
私に仕えてくれるトリシャと兄を兄とも思わない……弟扱いにしてしまっているセディーと母様と父様。
でもそれだけで私は十分幸せだったのに……。
なのに父様はびっくりするくらい呆気なく、流行病の最後のおまけの様にコロっと病に罹り、そしてこれまた治療を始める間も与えないくらい呆気なく亡くなってしまわれた。
最期まで家族を愛してるって……。
私の
最期の最後まで私の事を心配してくれた。
父様を助けられなかった私をセディーも母様も誰も責めたりはしない。
まだ13歳の子供なのによく頑張ったねって反対に抱きしめてくれた。
あの当時ラインフェルトへ助けを求めて行き倒れの病人も多く、それに掛かり切りだったのも事実。
でもっ、でも一番に大切な父様を助けられなくて一体何が賢者なんだろう。
最後に出会ったあの行き倒れの青年を見つけずそのまま
でも、きっと父様はそんな事を望んではいらっしゃらない。
何時も自分の事よりも何よりも国民や家族を想っていたんだもの。
だから私はゼン・アイリッシュ・ラインフェルトの娘として、またこの国の
それとセディーのお嫁さん探しも、性格良いお嬢さんを選ばないといけないしね。
ふふ、ちょっと五月蠅い小姑になるかもだけれど……。
そして私はそっと心の思い出へと蓋を閉じたのだった。
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