第2話  日々日常  朝

「――――ったく姫様、またも廊下の先の先の方まで聞こえていましたよ」


 はしたない……大公家の公女殿下ともあろう御方が毎日毎回同じ寝言で「」だなんて恥ずかしい。


 はいはいそっちだって毎回同じ事を言わなくてもいいじゃない。

 私だって別に毎日毎回好きで前世同じ夢を見ているんじゃあないし、第一好きで叫んでいる訳でもない。

 物心のついた頃よりずっと私に仕えてくれている……出会った日からずーっと嫌味と言う名のお小言ばかりを言い続けている侍女のトリシャ・サントスに、朝の支度を手伝って貰いながら愚痴三昧を言われ続けている。


 トリシャは私より一回り年上の27歳、見た目はきりっとした美人さん系でめっちゃ女らしい感じでなんだけれど、何故か私に関してだけは口を開けば何かしら文句を言う。


 昔はそうでもなかったんだけれどさ、最近三十路が近~くなってきている為なのかそれとも遂に私へ愛想を尽かしているのかはわかんないだけれども、それにしてもほんと文句が多いわ。


 ああ、トリシャに素敵な彼氏か結婚相手でも見つかればこの状況は変るかもしれないんだけれど、どうやら最近はそれすらどうでもいいみたいな感じがする。


 昔は素敵な男性と巡り合って幸せな結婚するのが夢――――って言っていたた癖に……。


 人間何処でどう変わるのかなんてわかんないよね。


 ま、私はこれから堅実にしっかりと素敵なお相手を見つけたら思い合う恋人達の様な甘い時間を過ごしてから……うふふ、皆に祝福される中幸せな結婚をして、大好きなこの国で穏やかで幸せな一生を送るんだ。


「姫様、お支度が整いましたので食堂へどうぞ。先程よりセドリック様がお待ちです」


「あら、兄様セディーもういらしてるの? じゃあ行くわ」


 扉に軽く手を触れれば小さな声で呪文を唱える。


扉よ、我の意思する場所へ開けオープン・ザ・ドア


 かちゃ


「お早う兄様セディーっ」

「お早うよく眠れたかい、フェティー……またどこ○ドアって言うの使ったの? 本当にいけない僕の大切な賢者マギ様だね、クスクス」


 そう、扉を開ければそこは廊下ではなくて食堂だったりする。

 でもこれは後で説明するねっ。

 

 目の前の食堂の椅子に優雅に座って書類を見ていた私の大好きな兄様へハグをし、それから挨拶の様にほっぺにお早うのキスをするのが我が家の日課の一つ。

 私と同じ長い亜麻色の髪を後ろで三つ編みにし、茶色の瞳……瞳の色だけは兄妹なのに違うんだよね。

 お母様、浮気……してないよね?


 この世界の男性は往々にして皆長髪で三つ編み一つが基本なの。

 似合っている人は良いんだけれどそれが似合わない人は……ねぇ。


 それから私の兄様はこのラインフェルト公国の現大公殿下だったりする。

 

 セドリック・イアン・ラインフェルト。


 名前だけ?

 いやいや名前だけではなくめっちゃイケメンです。

 二年前に流行り病で呆気なく亡くなってしまわれたお父様の後を継いで即位したんだよ。

 私好みのキリっとした感じの渋いイケメンさんではなく、可愛いタイプ……甘いマスクって感じ?

 弟にしたらめっちゃ可愛いんだよね。


 ほらっ、私の心の中ではがっつり35歳だからさ、兄様が25歳でも精神的には10歳は年下なんだよね~。

 でも今の私は15歳。

 つまりは兄様よりも10歳も年下だからしてちゃんとそこはね、年上扱いしようと目下努力をしているんだけれど中々と言いますか、やる事なす事めっちゃ子供だな~って思えちゃうし、ついついいけないと思いつつお説教までしてしまうんだよね。


 でも政治に関してはめっちゃ真面目に取り組んでいるからいいのさ。

 もし兄様が某国会中継あるあるみたいに会議中鼻ホジホジしたり、居眠りなんかしたら問答無用で蹴り倒そうと日々狙ってる所でもある。

 因みに今更なんだけど私の今の名前は――――。


 アルレイシア・フェスティア・ラインフェルトって言うの。


 ちょっと舌を噛みそうな名前なんだけれど、まあ気に入ってるからいいの。

 親しい人達はミドルネームを省略してって呼んでいる。


「ね、兄様お母様はまだと言いますかまた……?」


 席に座ってもまだ一向に現れる様子のない母の事を聞いてみる。


「――――はあいっ、お早う私の愛する子供達!!」


 バアンと勢いよく扉が開けば意気揚々と姿を現したのは今まさに噂をしていただろう人物であり全身泥だらけ状態の前大公妃、マーガレット・ミラ・カインツ・ラインフェルト……そう私達兄妹の母親でした。

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