第3話 日々日常 お昼までに
まぁ本当にこの人があの前大公妃かって思うくらいですよ。
毎日毎日つくづく思うけれど……。
何と言っても頭から足元までしっかり泥んこ塗れ状態で、艶やかでしっかりと手入れをされているだろう亜麻色の髪にも所々泥がついているし、あれれ黒曜石そのものと言った綺麗な瞳の横っちょにも泥がついているよ。
きっと泥んこの手であちこち構わずに触ったんだろーなって感じ?
華奢な身体つきの割に筋肉はきっちりとついてる肝っ玉母ちゃんさ。
何でも生粋の貴族出身のお嬢様なんだけれど何故なのか、昔っから土いじりが大好きで、自分の作った野菜で子供を育てるのが夢であり信条なのだとか……。
だからこれは何も今に始まった事じゃあない。
母様にかかれば綺麗な絨毯もなんのその、後でお掃除頑張って下さいそして皆何時もやらかし系な母でごめんなさい。
その母様が身体の泥を落としている間に
前世では朝からしっかり食事をした事なんてなかったもんね。
精々食べてもコンビニのお握りかサンドウィッチを休憩室でお茶と一緒に流し込む……なんと情けなーい日々だったんだろうかね。
転生をして食事の有り難さに思い知ったよ……全く。
そんな事をつらつらと考えてる間に次々とお料理は運ばれ、綺麗になった母様再登場――――!!
御歳40歳には絶対に見えない可愛い系の美魔女さんだよ。
「お早うフェティー、そしてまた……叫んだわね。ちゃんと裏の畑にまで聞こえていてよ」
うふふ……と可愛く微笑み、何時までも寝言は言わないでねとしっかりと釘を刺す。
流石は我が母君。
「母様も今日も生き生きとしていらっしゃるのね」
お陰様で私の腹の虫はさっきからグーグー鳴りっ放しだよ。
母様はにこっと微笑み二人の子供達に一人ずつハグとキスをしてから席へ着き、そうして
色とりどりのお野菜のサラダやお野菜のエキスたっぷり入っただろうポタージュスープ。
ほかほかでパリパリの焼きたてに芳醇なバターと小麦粉の香るクロワッサンや木の実を練り込んだパン達。
虹色のお野菜で作ったテリーヌに、厚切りベーコンをカリッカリに焼けば隣にはふわとろのトマトが沢山入ったオムレツ。
飲み物は朝採れ野菜のスムージー……。
なんて健康的で且つ美味し過ぎる朝御飯。
身体に良い事間違いないっ。
私は何時もの様に超ご機嫌で朝食をむしゃむしゃ……と、だがそれは天国から地獄の一丁目への始まりだったのかもしれない。
ううん、絶対にもう始まっていたんだよね!!
「フェティー今日の予定は?」
「んーそうね、これからちょっとあちこち回って治療院へ行くでしょ。それから……」
トリシャが言ってた予定をポツリポツリと思い出しながらクロワッサンを一口サイズに千切っては口の中へと消えていく。
「……お昼までには王宮に、その、戻ってこられる……かい?」
何とも歯切れの悪そうなセディーの話し方。
それと私の野生の勘――――いや、35年分の人生経験がビシビシと何かを察知している!!
絶対に何か私に隠している!!
それも……私にとって余り良くない内容らしい。
はあ、折角の楽しいお食事時間が台無しやん。
そして私はあからさまに嫌な顔をする。
本当はお食事中に空気を乱す事なんてお行儀が悪いから、普段ならば絶対にしないしって言うか、理性が働いて出来ないんだけれどそこはね、私はなんと言ってもまだまだ15歳のお子様だもん。
そう状況把握の為に態とね。
35年も生きてれば人間少しは腹黒くもなるものなのよ。
あ、プラス15年……もうっ、年齢なんて考えたくないっっ。
だからプラスはなかった事にするわっ。
そうしてあからさまに私が不機嫌になった事でセディーは余計に焦った感じで話し始める。
「い、いやほらね、今日はお昼からか、会議があるからね?」
「うん、知ってるわよ。トリシャから聞いていたからちゃんとその時間までには戻ってくる
ちらっとセディーを見つめて問い質す。
だーめだ、こりゃ……ますます怪し臭い。
既に顔中汗を掻いてるよ、おにーちゃん。
「う、うん、ちょっとね。か、会議の前に話したい事あって……」
本格的にヤバい感じが半端ないっっ。
「それは今じゃダメなの?」
少し優しく聞いてみる。
ホント20代の男って色々とお子様だわ。
まあ仕方がないけれどね。
でも可愛いトコも沢山あるからね。
私のにーちゃん兼弟⁇
「……い、今じゃない方がいいみたいだね」
要するに今その内容を聞けば直ぐにでも私が怒り大爆発する可能性が大なのだろう。
でも考えようによっては今この場でちゃっちゃと、いやいや午前中の要件速攻でを片して心静かに、その何か――――を聞いた方がいいみたい。
それに母様も知っているわね。
何気にしれっとした面持ちで静かに食後のお茶を楽しんでいらしゃるのだもん。
――――って事は共犯だっっ。
「わかった、じゃあお昼前ね。ではお先に失礼します」
かたん――――。
私は静かに席を立つとそれ以上何も言わず食堂を後にした。
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