一時間以上かかって、アプリに表示されていた予定時間どおりに肉じゃがは完成した。

「うん、いけるね」アツシは〈オート・シェフ〉のつくった肉じゃがを食べていった。普段つくる肉じゃがと変わらない味だった。

 しかし、サキのほうに目をやると、食べながら眉をしかめている。

「どうしたの?」

「うーん、わるくはないんだけど……」そういってサキは口ごもる。

「けど?」

「いつもとちがうというか、もの足りないというか……」

「材料も味つけも、いつもと同じはずだけどなあ。おいしくない?」そういって、アツシはもうひとくち食べる。やはりいつもの味だ。むしろ、自分でつくるよりよくできている気がする。

「いや、まずいってわけじゃなくて……」サキもひとくち食べて、少し考えこむ。「……ごめん、忘れて。気のせいみたい」

 サキはそういったあと、普段どおり食事をつづけた。その間アツシは何度か〈オート・シェフ〉の使い方を説明しようとしたり、今後の料理当番について話そうとしたりしたが、なぜかサキは乗り気ではなく、うまくはぐらかされてしまった。

 けんかの発端は、片づけも終わってリビングでくつろいでいたときだった。

 サキが遠慮がちにいった。「ねえ、やっぱり〈オート・シェフ〉を使ってまで、料理を自動化しなくてもいいんじゃない?」

「いまさらなんだい」アツシは驚いていった。「買うときは反対しなかったじゃないか」

「実物を見たら、思ってたよりずっとのろまだったでしょ」

「自動なんだから遅いのなんて関係ないだろ。食べる時間に合わせてタイマーをセットしておけば、あとは勝手にやってくれる。ロボット掃除機と同じさ」

「でも、場所も取るし、手入れも必要だし……」

「スペースは事前に用意したし、手入れも食洗機使うから前と変わらないよ」

「やっぱり、値段がちょっと高すぎると思う」

 アツシはその言葉にむっとした。「値段はいいって……」

「問題がなければよ」サキがさえぎる。

「何が問題なんだい?」

「あなたは問題ないの?」

「いまきみがいったことなら全部事前にわかっていたし、どれもたいした問題じゃないよ」

「そうじゃなくて……」サキは髪をかきあげ、ため息をつく。「……やっぱり、もういい」

「料理の味が問題なのかい?」アツシは食事のときのサキのようすを思い出してたずねた。が、これが余計だった。

「だから、もういいって!」サキはそういうや、リビングを出ていってしまった。

 結局サキは、その週の当番のあいだ〈オート・シェフ〉は使わず、自らの手で料理した。次の日にアツシが「せっかく買ったんだから使わないともったいない」とこぼしたときは、「自分の分だけでもロボットにつくってもらえば?」といって、いっそう機嫌がわるくなるだけだった。アツシはほとぼりが冷めるまで、サキに〈オート・シェフ〉の話をするのはあきらめた。

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