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 一日と少しの船旅で私たち『禿鷹挺身隊』はついに敵地、同盟海外共同統治領最大の港町ブロンデンブルクに足を踏み入れる。

 税関で手荷物の検査と旅券の確認を延々一時間もかけやられたが、特務機関自慢の偽造旅券は見破られることも無く、この段階では任務に必要なものは一切持ってないから幾ら荷物を調べられても何出てこないのは当たり前。

 無事に最初の関門を突破し、港まで迎えに来ていた特務機関が同盟領内に設けた偽装会社『クロネール商会』の人々に接触、彼らの車でブロンデンブルク中央駅まで向かう。

 道中の車窓から見る生まれて初めて訪れる異国の街は、石造りの建物もいかめしくどこか居心地が悪い。

 軍事要塞の様な大仰な意匠の駅に着くと、列車に乗る前にここで今度は憲兵の調べを受ける。

 税関の役人はまだお客さん相手という意識が有ったのか扱いは丁寧だったけど、憲兵はそうは行かない。

 帝国の人間と見るや、まるで嫌がらせの様に行李トランクの隅から隅まで調べられ、化粧品入れの中身まで全部出せと言って来る。

 これはまだ我慢できたけど、よいよ我慢ならなかったのは赤ら顔の口臭の酷い憲兵軍曹が私の体を調べ始めた時だ。

 明らかに触る必要のない個所もべたべたと念入りに触り、その時のスケベそうな顔の気持ち悪いのなんの!

 我慢してなんとか問題なしと放免されたけど、この屈辱は死んでも忘れないからね!覚えときなさい!

案の定シスルも憲兵詰所から出て来た時は、こめかみに青筋立てて爆発寸前。


「あのデブ憲兵め、あがが女と知れた途端しつこく尻を触りおって!顔も臭いも覚えたぞ、いずれ殺してやる、いや近いうちにだ!」


 憲兵から味わった燃え上がる様な不快感は、同盟自慢の弾丸超特急の豪華な一等客車で過ごすひと時でも癒されず、お詫びにと少佐からご馳走になった高級な発泡葡萄酒シャンパンと濃厚な味わいのチョウザメの卵でもなだめることは出来ず、結局内陸部の主要都市、グローヌに到着するまでブスブスと胸の奏で燻り続けた。

 グローヌは西方が舞台のおとぎ話に出てくるような街、入植開始当初に原住民や帝国との戦いに備えて作られた石積みの城壁がいまだに残っている。

 城壁の内側は木材と漆喰で出来た家々がちまちまと立ち並んだこれまたおとぎ話の様な風景で、街ち行く人々も西方人種と角を生やした原住民とが半々の割合に成って来る。

 駅前広場に面した三階建ての建物の中に、特務機関の偽装会社『クロネール商会』のグローヌ支店があり、そこで先行して運び込まれた撮影機材一式が預けられていた。

 頑丈そうな木箱に収められたそれを一個一個取り出し、電源を入れて状態を確認する。問題が無いと解るとまたファリクス文字で『医療用放射線撮影機・取扱注意』と書かれた木箱に治める。

 翌日、自動貨車トラックに撮影機材と同じくグローヌで準備した登山用具や野営用具を積み込み支店を出発。

 ここから私の偽の身の上は『まほらま人の商社の重役に囲われた原住民の若い女』から『真教系慈善団体の看護師』に切り替わり、少佐はその団体の医者、シスルは看護見習いに変身。衣装もオシャレな外套や短衣ボレロ女袴スカートから、着慣れた軍服を思い出す濃紺の詰め入りの上着や生成りの帆布みたいな生地の女袴スカート、払い下げ品の軍靴、黒い毛布みたいな外套に代わる。

 都会的な素敵な淑女レディに成れたのはほんの数週間だけだった・・・・・・。なんか寂しい。

 けど、せっかく国民の血税で贖い、ユイレンさんに選んでもらった衣装一式は少佐の計らいで梱包され船便で月桃館に送ることに事にしてもらった。

 無事任務を遂行すればまた着るんだ!

 シスルは私と同じ女袴スカートを履かされたが、案の定ひらひらが嫌だと言い出し、少佐がやむを得ず股引を履くことを許可し何とか納得させた。

 けど、これの方が看護師としては実用的じゃない?と思い、登山用に持ってきた羊毛の股引を履いてみると、これが暖かくて実によろしい感じ。

 結局、看護師役をしている間は女袴スカートと股引という格好で通す事となった。

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