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で、私はというと、結局その日は一回も成功せず、ボロボロの態で何とか下山し千
夕食の後、自分の天幕に戻り揮発油灯の橙色の明かりで我が身を見ると全身青あざだらけ、お腹には安全帯で絞られた赤い帯。
情けなくなって思わずため息がでた。
翌日、天気が崩れ朝からシトシト雨が降っていた。
当然今日の訓練はお休みで、軍用の携帯天幕の中で登山の教則本とにらめっこしつつ、あの滑落防止法の訓練を寝転がりながらやる。
まず仰向けに、それから滑り出したところを思い描きながら素早く上半身を捻り、うつ伏せになりつつ足を折り曲げ
何度か繰り返すと流れる様な動作で一連の動きは出来るようになるのだけれど・・・・・・。
本番ではできる自信が全く湧かず、教則本を投げ出して天幕の先細りな天井を睨む。
「入っていいか?」とシスルの声、どうぞで応じると黒いもじゃもじゃ髪を雨粒で飾った彼女がのっそり入って来た。手には魔法瓶とホーローの手付き湯飲みが二つ。
そして、わたしの頭の上にぺたりと座ると黒い瞳で見下ろしてきて。
「ライドウがショウガと蜂蜜をいれた茶を淹れたので持ってゆけと言うから持ってきた」
料理も上手だし、お茶とか珈琲とか入れても美味しいし、見た目はいかにも無頼漢でそう言う事は全くしなさそうな人なんだけど、不思議な人だわ、少佐って。
反対に、私の枕元で尻尾をパタパタさせつつ魔法瓶を持つこの子は見た目とやることがそのままの子。
ほっそり引き締まった体に浅黒い肌はまるでネコ科の俊敏な肉食獣みたいで、顔つきも綺麗と凛々し両方の言葉がどっちも通じそうな感じ、それに言葉遣いに態度。まるで男の子のそれで、女の子らしさが全くない。
この風体なら、さっさと標高五千
「ありがとう」と言って座って湯飲みを受け取り、魔法瓶の中身を注ぐ、甘い蜂蜜とすっと胸透くショウガの香りが天幕に満ちる。彼女の分も入れてやるとそっと口を付ける。
お茶としょうがの風味が鼻に抜け、濃厚だけど優しい甘みが舌の上を踊り、胃の中に落ちてゆく暖かさと刺激が体をほぐす。今日みたいなうっとおしいお天気を乗り切るにはちょうどいい飲み物だ。
「滑落防止法の勉強をしていたのか?」と私の枕元に有った教則本を眺めつつシスル、ちょっと恥ずかしかったので返す言葉がつっけんどんになる「そうよ、それがどうしたの?」
彼女は、私の目を覗き込みつつ「本をいくら読んでも上手には出来ないぞ」
これには本当に頭に来た。
そう、確かに私はいくらやっても成功できなかったし、今でもできる自信はない。けど、明日にはできるかもしれないし、だいたい自分が出来るからって年上で目上の人に向かって言う言葉?もうため口なのにはなれたけど。何なのよ!
「ちょっと、いくら自分が上手くできたからって、その言い方は無いんじゃない?大体、君は雇員、私は大尉よものの言い方に気を付ける事ね!」
しまった!と思ったがもう口に出してしまったからしょうがない。
気を悪くしたかと表情を伺うが、涼しい顔をしてお茶をすすっている。
逆に私の方が腹立ち苛立ち紛れに階級をかさに着た物言いをしたことをずしんと後悔し始めていた。こんな言葉で散々苛められて来たのにね。
取り繕うつもりで聞いてみた。
「じゃぁ君に聞くけど、どうすれば私が上手くできるようになると思うの?教則本を読む以外に?」
手付き湯飲みから顔を上げると、一言「怖がるな」
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