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〇七二〇時
アキツ諸侯連合帝国陸軍新領総軍特務機関長室
本館に戻り
新領総軍特務機関。
正面切って敵と戦う歩兵や戦車、砲兵などの戦闘兵科が表舞台で、私の所属する情報局や装備局、補給局が裏方とするならば、特務機関は敵に対する
そんな人たちが、私に何の用があるの?
そんな不安に駆られる反面、私にはひそやかな期待が有った。
特務機関長と言えばあの方だ。あの方に会えるかも?会えたらいいな。ぜひお会いしたい!
私みたいな下っ端士官が会えるようなお方じゃないけど、期待だけが勝手に膨らみ不安をどっかへ押しやる。
部屋に入っても左右の廊下にはいくつもの小部屋が並び、目つきの悪い尻尾付きの衛兵に教えられた通り奥の部屋に進みドン付きの部屋を
すると「入れ」の良く通る高いけれど力強い若い女性の声。
え!まさかひょっとして!
重たい開き戸を開け一歩踏み込み「失礼致します!」と勢いよく敬礼を決めて「情報局画像部技術課シィーラ・ルジャ・シャルマ少尉!出頭いたしました!」
部屋の奥、拓洋の街を一望できる窓の前、机の上に軽く腰を掛けその人は居た。
意匠は帝国陸軍の将官用軍服だけど、色は濃緑色ではなく目の覚める様な純白。金色の飾緒は豊かな胸のお陰で脇の前で下がり、黒い革帯は引き締まった腰の線をさらに強調している。
すらりと伸びた脚は黒い長靴でさらに緊張感を増し、吸い込まれそうな鳶色の瞳は静かに私を見つめている。そして、窓から差す陽の光を受けて煌めく水晶細工の様な白銀髪。
そう、この人こそ帝国陸軍、いや海軍、航空軍を集めた全軍の女性将兵憧れの的。私たちの上に燦然と輝く明けの星。トガベ・ノ・セツラ少将閣下。
帝国開闢前から恐れ多くも畏くも皇帝陛下のお傍に侍る十二公家が一家門トガベ公爵家の嫡外子として生を受け、若干十歳で軍人と成って後は卓越した頭脳を武器にメキメキと頭角を現し、僅か二十七歳で少将まで駆け上がるという非常識なまでに奇跡的な出世を成し遂げた人呼んで『軍装の麗人』。
まぁ、口さがない男共は好奇の目二割やっかみ八割で『白い女豹』とか『銀髪の女狐』陰口を叩くけど、美しさは正義よ、黙りなさい!
などと思いつつ、少将閣下に見とれていると。
「指定の時間より十分早い。実に良い心がけだ少尉、これから少々長い話になるまずはそこに掛けなさい」
と柔らかそうな革張りの長椅子を示された。
礼を述べ緊張でカチカチな体を何とか動かし腰かけると、ほぼ同時に扉が
卓の上に置き、優雅な所作で淹れてくれると紅茶の豊かな香りが鼻をくすぐる。
「君とは歳もそう離れていないし同じ女だ、ざっくばらんに話をしようじゃないか、まずは飲みたまえ、龍昇高原産の茶葉で淹れた茶だが」
「有難うございます、頂戴いたします」と口を付ける。器も高そうだけど、紅茶も美味しい。少し緊張がほぐれる。
「君が参謀本部に提出した上申書をひょんなことから入手して読ませてもらったが」
熱い紅茶が変なところに入り咽そうになるが根性で我慢する。あれがまさか少将閣下の手に渡ってたなんて!
穴が有ったら入りたい、いいや、エンピが有ったら今すぐタコツボ掘って入る。
どんな言葉が後から続くかビクビクしながら待っていると。
「実に興味深い、もしこの技術が確立された暁には、今私が抱えている重要案件に光明が差すだろう」
そして閣下はご自分の机から離れ、なんと私の隣に腰かけられると目の前に一冊の冊子を置かれた。
表題は『感光膜ニ依ラヌ動画撮影及ビ動画ノ電波ニヨル送受信ノ技術ニ関スル考察及ビ提案』
と、言うのがこの上申書の極めて乱暴な要約なのだけれど・・・・・・。
「流石情報部の技術部門に属しているだけあって、最新技術の情報に常に触れられる環境を上手く生かし、なおかつ独創的な視点と発想を持って理路整然と考察し提案として纏め上げられている。こんな頭脳を持ったものは参謀本部にもそうは居ない、ここまでの才女を角がある女だ若いとう下らん理由だけで酸っぱい匂いのする現像室に閉じ込めているのは新領総軍、いいや全帝国軍にとっての利敵行為に等しい、この上申書をゴミ箱に投げ込んだものに至っては、臨南州の国境警備隊で日がな一日望遠鏡を覗くような任務に就かせるのが適当だ」
あの魅力的なお声でその様にお褒め頂くと、小官、このまま卒倒してしまいそうです。それもこんなお近くで!
「詳細は軍事機密と外交機密に抵触するので口にはできないが、もしこの上申書にある君の提案する装置が完成すれば我が帝国と同盟の間に横たわる全球大戦休戦以来からの重大懸案が一気に解決するだろう。私はこの発明の実現を切に願っている」
そうおっしゃると、少将閣下はグィと私に近寄られあのお美しいお顔が私の角に触れんばかりの距離まで迫られた。
緊張が極限に・・・・・・。私、本当に倒れるかもしれない。
「是非とも君にこの発明をモノにしてもらいたい。ついては貴官を本日付で大尉に任じ、新領総軍特務機関への転属を命ずる。そして早々に拓洋を発ち、特務機関が密かに設立した研究施設に赴き、そこで開発の指揮を取るのだ。猶予は一年半、この間に必ず開発に成功せよ」
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