第四話 血がにじむほどの努力
吐血女子日本代表、美原美子がブラッディサークルへと歩いていく。
そして、審判から叫ばれる血の契約。
「プレイブラッドォ!」
その声と同時にほら貝の音が鳴り響く。
そして、美原美子は、サークル内の五芒星の線を縫うようにゆっくりと、そしてしなやかに、なんていうか、非常に形容し難いのだけれど、うねうねして歩いていく。
うん。
うねうね、だ。
なんともうねうねしている。時に少し戻ったりしながらうねうねしている。
観客席にいる、関係者たちからため息が漏れる。
このため息は、「おいおい何やってんだよ!」のため息じゃない。
これは、「す、素敵……」のため息のやつ。
うねうねしてるだけ、に見えるけどなあ。
驚くほどうねうねしているから、うねうねしているなあ…と思って見ていると、視線に気づく。
美原美子はチラチラとこちらを見て僕の反応を気にしている。
集中しなよ、とも思うし、ここが芸術点の分かれ道なんだからやっぱり集中しなよって思うけど、よっぽど僕、というより田中血太郎と因縁があるのだろう。
とにかく、とにもかくにも、チラチラ見て来ている。
何とも居心地が悪い。
美原美子が終わったら自分の番だと思うと胃がキリキリするし。
落ち着こうと深呼吸をしていると、別に眠くもないのに欠伸が出てしまった。
よっぽど脳が酸素を必要としているんだろう。
「あんた今欠伸したの?!」
美原美子が手でTの文字を作ってこっちに向かって飛びつく勢いで近づいてくる。
「タイムブラッドォ!」
審判が叫ぶ。
ああ、タイムありなんだ。吐血って。
近づいてくる美原美子は涙して僕にこういった。
「そう……あんた、気付いているのね……私がもう、限界だってことに……」
ざわめきが聞こえる。
観客席から。
審判から。
僕から。
「そうよ。私は今日ここで……日本代表を辞退しようと思ってきたの。せめて、あんたと最後の吐血がしたいと思って……」
泣き崩れる美原美子。
こちらを見て、なぜか頷く審判。
僕はそっと、震える手で、とりあえず美原美子の肩を叩いた。
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