第二話 吐いてからが、長い夜
「期待しているよ。血太郎君」
「鮮血の騎士が、終わっちまうはずない。そう信じてました!」
「病み上がりだし、距離はともかく表現力は見せてくれたまえよ」
テスト本番。
今日は僕こと田中血太郎が、吐血の日本代表として相応しいのか調べる日だ。
吐血は、吐いた血の距離と芸術点で勝負する世界一位の人気と競技人口を誇るスポーツ。
全くをもってドエライ人間と世界に転生してしまったものだと思う。
思うというか、嘆く。
吐血界のスーツを着た大人たちは口々に勝手なことを言う。
鮮血の騎士って二つ名、カッコいいけど鮮血は自分が出すんだもんな。
この三日間、訓練に訓練を重ねた僕は、なんと吐血できるようになっていた。
僕、というより、田中血太郎の才能なんだろうけど。
そりゃあ日本のチャンピオンだった人だもんな。血太郎。
でも、さすがに日本代表には程遠いと思う。
動画で見たんだ。血太郎の吐血ってやつを。
びっくりした。
距離は短いんだけど、芸術点が圧倒的に高い。
つまり、表現力がめちゃくちゃ優れているってこと。
これが本当に大問題で、吐血における芸術点が何度見ても理解できない。
そもそも、僕はフィギュアスケートとかを見ても、表現力云々がさっぱりわからない。
芸術脳がそもそもスポンジみたいになっちゃってる男なのに、その上吐血における芸術点になってくるとさっぱりだ。
吐血は、五芒星が描かれている直径6.66メートルの円の中心からスタートする。
制限時間内に円の線を踏まないように助走をつけて吐血し、距離を測る。
まあ、オリンピックとかのハンマー投げとかに近いかもしれない。
円がやけに大きいし、不吉な数字だなってことは気になるけど。
その円の中で制限時間内を吐血するための瞑想に使うもよし、舞うもよし。
おそらく、円の中の行動が芸術点になるんだろうけど……。
ものすごく軽やかに踊ってる人とかがいたり、ギターで弾き語りをしてる人とかもいた。
血太郎は、なんかウネウネ動きながら線ギリギリまで歩いて行って、ビュっと吐血するだけだった。
なのに、圧倒的に芸術点は血太郎がトップ。
意味が不明だ。
なんとなく見様見真似のウネウネは覚えてきた。
吐血の距離ははっきり言ってほぼゼロ。ゲボっと血が出るぐらいしか、まだできない。
こんな状態でやれるのか?
スタッフから声がかかる。
「血の太閤こと、田中血太郎さん、お願いします!」
血の太閤って呼ばれ方もしてるの?
そう思いながら僕はスタジアムのコートに向かう。
一歩一歩、歩くごとに、近づくごとに緊張していくのがわかる。
コートに出たら……今日はテストだっていうのにスタジアムは満員だ。
全員がスーツ。
国の、吐血界の宝である田中血太郎の復活を一目見たいと、関係者が集まっただけでスタジアムが満員。
ちなみにこのスタジアム、収容人数が66666人という巨大スタジアムだ。
数字! とは思うが。
本来なら、拍手や歓声がなるところだろう。
今日は試合じゃないし、僕にプレッシャーを与えたらいけないと思っているのか。
大人たちは、静かに見守っている。
それが逆に僕を緊張させているんだ。
ゲロ吐きそうになってきた……。
いや、これはゲロなのか吐血なのか……。
クラクラする。
スタッフに誘導されて僕は円の中に入る。
は、始まってしまう……。
とにかく、吐くっきゃないんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます