第9話 あの時の繰り返し
「ちょっと待って!」
俺はようやく金縛りが解けたように柊の前に出て、両腕を大の字に広げ、
「そんなのあんまりだ! 誰にだって間違いはあるし、柊の発言が原因だっていうのは証拠がない。今は人員を減らしている場合ではなく、村の復興を優先すべきでしょう!」
「まあまあ。榊の言わんとしていることはわかるが……まずは怒りを鎮めていただかないとまた同じ被害がくり返されるかもしれない。それに、生贄になるのはたいへん名誉なことだし、後世まで英雄として語り継がれるだろう」
長老の息子がその冷たいツリ目をこちらに向けて、たんたんと説得しにかかってきた。
その目を見て俺はイライラした。
彼の言っていることは確かに正しい。
けれど、その理論では到底理解できないし、理解したくもなかった。
俺はその目をキッと睨み返して、
「誰が納得するかよ、そんなこと」
「なんだって?」
長老の息子はいぶかしげに眉をひそめた。
俺は気持ちを抑えるように大きく息を吸い、
「もう嫌なんだ……失う必要のない人を失うのはもう嫌なんだ。これ以上俺の周りの人間を奪わないで!」
その時、頭の中で優しい笑顔が再生された。
苦労を苦労と思わない、素敵な人だった。
「……お前の母親のことか」
ずっと黙ってことの成り行きを見守っていた長老が静かに言葉をもらす。
俺はその単語にビクッと肩を震わせた。
「確かに……あれはむごかったかもしれぬ。だが、柊、お前の意見はどうだ? お前は生贄になることについてどう思う」
ずっと黙っていた柊は長老に名指しされた。すると柊は少しためらいをみせつつ、
「俺は……。わかりました、俺がやります」
(なんで……!)
俺は先程から目を合わせない柊の発言に愕然とした。
けれど長老はうむ、とうなづいて、
「さすがお社の子じゃ。それでは明日の明け方に湖のほとりで行うことにする。村のものは全員正装で来るように。柊、準備があるからわしの家に上がりなさい」
長老の指示に柊はわずかに「はい」と返答して、さっさと家の中へ消えてしまった。
俺は信じられないものを見るような目でその一部始終を見届け、何も言えないまま立ちすくんでいた。
「榊、ちょっとこっちに来て手伝ってくれるか?」
長老の息子にそう言われてその後についていく間も、先程の光景と数年前の出来事が頭の中を循環していた。
――そこで、記憶が途切れた。
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