第7話 綺麗事と予感
村は見事に冠水していた。
村の中の道を進んで行くと、どの家も瓦礫の撤去作業に追われ、いつもは遊び呆けているチビたちも黙って手伝っていた。
俺はちょうど生き残った大木の下で立ちすくんでいるおじいさんを発見し、近くまで寄って声をかけた。
「大丈夫ですか? 何かお手伝いしましょうか」
するとおじいさんは感情を失った目でこちらにわずかに顔を向けて、
「これで大丈夫だと思うのかね。あの田んぼを見てみなさい」
ぼやいたおじいさんの目線の先を見たが、俺の目には泥水しか見えなかった。
(でも、あそこが田んぼだったんだろうな)
水に飲まれてしまえば地理がつかめず、そもそもそこが何だったのかわからないが、おじいさんの目には確かに自身の田んぼが写っているのだろう。
すると突然、唇を震わせたおじいさんはぎゅっとこぶしを握りしめて、
「また土を育てなきゃならん。この流れのせいで栄養はほとんど流れてしまうだろうからな……。だが、他の村からもらってくるにも、そんな金もなければ重労働だって行えない。もはやわしは死ぬしかないようじゃ」
「…………」
俺が言葉に詰まっていると、おじいさんは木に持たれて観念したように目を閉じ、そこから言葉を発しなくなってしまった。
何か励ましてあげたかったが、今の自分自身にはそんな綺麗事を言える度胸はなかった。
その場しのぎの嘘が後々人を傷つけることを俺は誰よりもよく知っていたからだ。
だから小さな罪悪感を抱きつつも、何も言わずにその場を後にして、川の中を村の一番奥にある長老の家へ急いだ。
急ぐ主な理由は早く次に取るべき行動を話し合いたいからであったが、実は先程から嫌な胸騒ぎがしていたからでもあった。
頭の中に数年前の光景がよぎる。
(とにかく急がないと。この予感が何なのかわからないけど、とにかく行かないと)
長時間冷水に浸かったため、もう足の感覚がほとんどないが、ただひたすらに長老の家を目指して進んで行った。
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