第6話 豪雨

すぐ近くで水の流れる音がした。

それは数滴とかではなく、大きなうねりとなって大地を駆け抜ける川の音だ。


(あれ、川なんて近くにあったかな……?)


俺はうっすらと目を開け、ゆっくりと布団からはいだして障子を開けた。


「はっ……」


思わず息を呑んだ。

昨日まで砂利が敷き詰められていた庭を、濁った水が占拠していたのだ。

それはわずかに床より下を流れていて、一歩間違えればここも濁流の一部だったかもしれない。


俺は空を見上げる。

今はからっと晴れているが、昨日はとても激しい雨だった。

寝る前に戸締まりをしたときにはこんなことにはなっていなかったが、雨音がうるさくてなかなか寝れなかった記憶がある。


(それより村の状況を確認しないと)


そう考えた俺は後ろを向き、すやすやと眠りこけている柊に向かって、


「おい! 柊、起きろ!」

「ん……るせぇ………」


そうつぶやいて柊は寝返りをうったので、俺は勢いよくその背中を蹴り、


「さっさと目を覚ませ!」

「ってぇ…なんなんだよ!」


目覚めが最悪だと言わんばかりの顔でこちらを睨んでくる柊に、俺は窓の外を指差して、


「これ見て」

「は……まじか」


目を見張る柊の顔を見ながら、俺は外用の厚手の衣を手早く身にまとうと、


「柊はお社に水が入ってないか見てから来て。俺は長老のところまで行って、村の様子を確認してくるから」

「お、おう……」

「水深はきっと膝丈ぐらいだと思うけど、何があるかわかんないから気をつけて」

「それはお前もだろ。気をつけろよ」


俺にならって外用の厚手の衣を着始めた柊が真面目な顔でそう返して来た。

俺は静かにうなづいて、


「じゃ、行ってくる」


そう言って窓をわずかに開け、直接水の中に足を入れた。

水は冷たくそこまで流れは速くないが、水中に枝やごみがあるようで、時々刺すような小さな痛みを感じる。


俺は気合を入れるように勢いよく窓を閉めると、足を動かして村の方へと進んでいった。

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