第13話 どちらも、ひとまず
「彼らは、今、力を高めているところなのです。この館には入らないように。まあ、入っても危害が加えられると言うわけでも、儀式に支障があると言うわけではないけれど、…でも、やっぱり入らないほうがいいんですよ。それに、明日には、彼らはでてきますから!」
汗だくになって女神は、館を背に、訪れる勇者達に説明しなければならなかった。“何で私がこんなこてを!早く終わらせて出てこい!”と心の中で叫んでいた。
その頃、魔王軍の中でも、叫び声が上がっていた。
「ほほほ、いい様だこと!」
茶髪が雑じる金髪の、やや小柄な女が、玉座に座る魔王の首を抱きながら、高笑いしていた。
「くそ。この屑女~!私の魔王を返せ!」
裸にされ、鎖と奇妙な触手のようなもので、繋がれた邪神アガサレが、無念そうに声をあげた。
相手は、邪神バサガである。
「お~ほっほっ!この人は、あんたみたいな臭い女より、私の方が数段、いえ数百段いいってよ!もう私に夢中なの。私達のラブラブ生活のお邪魔虫は、そこで、私の秘密兵器の動力源になっていればいいのよ!」
バサガは、くすんだ金髪を振り乱しながら、叫び、せせら笑って、イケメンの魔王、目には力がなかった、の手を引き、背を向けて立ち去った。その背に向かって、
「あなた!絶対助け出してあげるから、待っていて!糞女、今度こそ、貴様を消滅させてやる!」
と罵りの声があがっていた。
「マエミチは、女魔王や女勇者の誰かを連れてゆくつもりかしら?そうよね、ハーレム好きな男は際限がないものね、増やすつもりだものよね、きっと。」
「女神様のお言葉ですが、主様がハーレム好きかどうかは別にして、多分、あの女勇者達のいずれも、あの元女魔王も、戦姫には加えないでしょう。」
「どうしてよ?」
「弱すぎます。死ぬ姿を、主様は見たくないのです、もう。」
「え?」
パエラは少し驚いた顔をした。考えがしばらく繋がらなかった。
「というと、連れて来て、死なせてしまった女がいたわけ?」
ソクラテスは、しまった、という顔をしたが、溜息をついた。
「秘密だとは言われてはおりませんし、主様への誤解を解くためですから。」
言い訳するように前置きした。
「私が、最古参というわけではありませんから、それ以前のことはわかりませんが…。」
既にウァレアとガミュともう1人がいた。召喚された世界で、そのもう1人が戦いの最中に倒れた。回復魔法も、再生魔法も間に合わなかった。過酷な戦いが展開されていた世界だった。闇落ちした勇者や復讐鬼と化した元勇者などもいて、彼は孤立無援に陥ってしまっていた。
「無理をするな。あいつのようになって欲しくはない。」
「私は彼女とは違うわ。」
彼女たちは、以前に死んだ女に自分を見ていると不満を感じていたらしい。
「ガミュ、頼む。ただ、自分を犠牲にするなよ。」
「分かっておる。」
「ウァレア。あいつのことを見ていてくれ。自分を優先した上でな。」
「心配するな。」
そんな会話が、その世界ではあった。
「主様は泣きました。ガミュ様も、ウァレア様も泣きました。主様は、お二人に絶対死ぬなと言って、お二人を抱きしめながら、また泣きました。」
「でも、勇者や魔王なら。」
「私の見るところ、あの方は、彼女らに勝ることはあっても、劣ることはなかったかと。」
「でも、彼が連れて来たのでしょう?」
「主様を慕う者は多いのです。事情は色々ありますが。ついほだされたのが彼女達なのでしょう。あれから、主様は、どんなに懇願されても、力のない者は連れていかないことにしたのです。」
それでも、疑問が続いた。
「でも、そんな危険なことはこれからあるとは限らないでしょう?」
「女神様。貴女は、主様を召喚されたではありませんか?」
「?」
「主様の力は、あの時から、さらにかなり強くなっています。ガミュ様もウァレア様もそうです。ギュナア様もマルバ様も、ガミュ様、ウァレア様に匹敵する力を持っています。だから、今余裕があるかのように戦われています。あの時の主様達では、こうはいかなかったでしょう。」
「う…。」
確かに、自分が今回与えた使命は、かなり困難なことだった。そのために、結果として彼を召喚したわけである。もし、今後彼が召喚されることがあれば、かなり困難な状況になる可能性が高いだろう。
「憐れみを感じて、情にほだされて、結局は、その者の死を見るのは嫌なのです、主様は。身勝手かもしれませんが、私は主様の気持は良くわかります。」
“でも、ここで死ぬなら、少しでも長生き出来て…。”彼女は思考を止めた。
「でも、とにかく、そろそろ昼飯でしょう。少しは、話しができるでしょう?」
ソクラテスの返答を待たずに館の中に入り、中をずんずん進んだ。
「入るわよ!」
広間の扉を開くと、男女の交わりの臭いが鼻をついた。四人の女達はぐったりと、満足そうな顔で絨毯の上に、だらしなく横たわっていた。
「清らかな女神様が、来るところではないが、何のようですか?」
彼は、裸のまま、茶をすすりながら、あぐら座りしていた。
「もう終わったんでしょう、その様子だと?」
「そう見えるますか?」
“当たり前でしょう。彼女達は、もう動けなくなっているじゃない!”
「午後がある。食事をすませてから、もう一度だよ。」
小さく笑った。それが小馬鹿にするように感じられたので、
「彼女達を護ためではなく、貴女が楽しみたいだけではないの?こんなハーレムが楽しいわけ?」
睨みつけた。
「ソクラテスが言ったのか。言わざるを得なかったんだろうな。きれい事は言わないが、全て事実だ。自分と彼女らの力を増したい、彼女らの体を楽しむというのも。連れていったのは、憐れに思ったからというのも、好みの美人だったからというのも、事実だよ。」
「強くなるようなら、この世界かも、この世界の勇者も連れて行ってもいいんじゃないの?十分強くなるまで、後ろに下げていればいいんじゃないの?」
「力が弱いと、パワーアップが比率、大きさからいっても小さいんだな、これが。それに、なかなか後ろで待機というのも、上手くいくとは限らない。難度の高い世界では、そんなこと言っていられないかもしれない。実際、そうだったし、私の苦戦に彼女達は黙って後ろにはいられなかった…。」
「まだ、召喚されるつもりなの?」
「しないでいてくれるか?それならありがたいが。」
「ん!」
そうこうしているうちに女たちは身を起こし始めた。
“邪魔者がいる!”
一斉に、4人の非難する視線を感じた、痛いくらいに。誰かのお腹が鳴った。
「まず、食事だな。」
「そうよね、腹が減っては戦ができぬだもんね。」
“なんの戦よ!”
「そうだな。」
「我も賛成だ。」
「取り敢えず、休戦ね。ところで。」
“あんたは出て行ってね。”
4人の視線は、そう言っているようだった。
“ふん。言われなくても、出て行ってやるわよ。”
「まあ、食事の同席はいいではないか。」
マエミチが助け船(?)をだした。
「主様。食事の準備が出来ました。」
ソクラテスがドアを開けた。
「そうか。」
五人は裸のまま移動を始めた。女神は、溜息をついて、それに従うしかなかった。
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