第12話 勇者達は進撃する
「マエミチ殿。申し訳ありません。遅くなりました。」
そう言って、アンドラが自分のパーティーと本国からの将兵を引き連れて現れた。ただでさえ、数が多くない本国将兵を、準備ができた部隊だけを連れて、急ぎ駆けつけてきたのだ。
“気持は嬉しいが、困ったもんだ。今は静かにしていてくれ、とは言えないしな…。”マエミチは、この律儀な騎士に少し頭を抱えた。しかし、そんなことは、顔に出さず、
「さすがアンドラ殿。心強いです。戦いは、スビードですからね。」
彼女は、誇らしそうに微笑むのだった。その時、元魔王のアマモが、少数ながら、自分の元に馳せ参じた魔族兵のことについて報告に来た。“これを利用させてもらおうか。”
「アンドラ殿。私達が陽動で魔軍の先鋒を叩きます。乱れたところを横合いから突いて下さい。打撃を与えて、すぐに退いて下さい。アマモが支援のため長距離攻撃で敵の本陣を攻撃し、退く時には支援します。」
何故、元魔王が味方なのか何度も説明した後に、マエミチはアンドラに要請した。
「この攻撃を繰り返して、侵攻を止めます。全軍が揃ったところで、一気に攻勢に出ますから。」
進撃してきた魔族の軍は、マエミチ達に先鋒を壊滅され、アンドラ達の度重なる襲撃、それを追おうとするとマエミチ達に叩かれ、無視して進撃しようとすると、マエミチ達に、また、先頭を壊滅され、止まったところをアンドラ達に襲撃されの繰り返しとなって、早々に戦力をすり減らして後退した。しかも、アマモの攻撃が執拗に本陣に着弾して、指揮が混乱し、態勢を立て直すどころではなかった。
「あの程度の連中、我らだけで
余裕で、瞬殺出来たのではないか?」
「勇者様に花を持たせないとな。」
その会話を聞きながら、女神パエラは、“本当に、こいつは、どれだけの力と馬鹿強いパートナー達を持っているのよ。”と呆れかえった。
そうこうするうちに、他の勇者3人を先頭にした人間・亜人の連合軍本隊がやって来た。
マエミチ達が事前に行なっていた偵察結果をもとにした作戦と4人の勇者、体制の整った軍に、消耗しきっていた魔王軍が抗する術はもはやどこにも残っていなかった。
「邪神が出てきた。」
その声に、マエミチがまっ先に飛び出した。その前に、勇者達には、自分が、ここは引き受けるので、魔王を追撃するように指示していたが。
鎧兜で身を固めた女のように見えた。怪しく輝く魔大剣をかざし、ドラゴンにまたがって迫った。
自分達もという顔の4人に、マエミチは、
「あと一人を警戒していてくれ。」
と宥めて、彼一人で相対した。
大剣の一撃を、自らの魔法で現出させた光の剣で受け止める。ドラゴンの炎も、彼女の放つ雷撃も軽く受け流せて、光の剣を打ち下ろす。
「お前は、誰だ?」
「元。女、神ア、ガ、サ、レ様。お久しぶりです。」
「?」
皮肉っぽく言ったつもりだったが、彼女には通用しなかった。憶えていないのである。
「どうでもいいわ。蹴散らしてやる!本気を出すわよ。」
「意外に気が合う仲だったんだな。私も、実は、まだ本気をだしていないんだよ。」
「フン、その減らず口に免じて瞬殺してやる!」
大剣の耀きが一層増し、電撃の強さが倍以上になった。それが、マエミチの光の剣と防御結界に叩きつけられた。
「どうだあ~!」
さらに、じりじりと、その力をあげてくる。マエミチは、それと拮抗させながら、
「相変わらずの力押しだな。そんなことだと、バサガにしてやられるぞ。」
「え?」
マエミチは、一気に押し返して、逆に一撃を加えた。
「う!」
何とか耐える邪神を見て、彼は嬉しそうに、また、弄ぶような目をして、
「さすがだな。お楽しみは、これからだからな。」
「クソめ。」
しばし対峙し、睨み合う二人の間に、割って入った者がいた。
「アガサレ。降りなさい!魔王軍は撤退を始めたわよ。」
女神パエラだった。
その彼女に、アガサレは躊躇なく斬りつけた。パエラを守って、マエミチが受け止め、逆に切り返した。瞬間、パエラも援護したこともあって、アガサレは傷を負った。それに畳みかけるように攻撃をかけた。アガサレは、致命傷を負わなかったが、かなりの手傷を負った。
「クソめ!」
と言って、ドラゴンをつっこませて、自分は飛んだ。ドラゴンを、マエミチが真っ二つにした時には、彼女は逃げ去っていた。
「私のせいで逃がした?」
「まあ、そうだな。」
“そこは、そんなことはない、と言うところでしょうが。”パエラは、むくれた。
「まあ、しかし、バサガの奴が、傷ついたアガサレを、見のがすとは思えないからな。あの先の読めない奴だ、絶対協力などしないだろうから、戦力半減、労せずして、となるかもな。その意味では、よくやってくれたと感謝すべきかもな。」
皮肉っぽく笑った。
眼下では、勇者達を先頭にした人間・亜人の連合軍が、退却する魔王軍を追撃していた。
地面に降りると、何処で見ていたのか、4人が直ぐにやって来た。
「アマモには、少数が加わっただけだ。助力してやったが、ここの魔族どもは、どうなっているのだ?忠誠心の欠片もないのか?」
ガミュが文句をまっ先に言った。ギュナア、マルバ、ウァレアは、勇者達の戦いぶりなどを報告し、力が余っていると苦情を言った。
「ご苦労。直ぐに、暴れてもらうから、待ってろ。」
「分かっておるが、その前にな…。」
ウァレアがもじもじしながら、彼の方に顔を向けながら、下を向いていた。他の3人も、同様にして、黙っていた。
「分かってるさ。」
彼の返事に、明るくなった4人を見て、パエラは、大きな溜息をついた。
“こいつは、曲がりなりにも一応、地上のとはいえ、神であろうが、それなのに、なんじゃ、この醜態は?”
「この後、一気に進むからな。」
とってつけたような理由を、彼は口にした。
“また、私が弁解するのか。”
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