第11話 勇者達の出番を演出する

「おい、元魔王。」

「なんだ?」

 彼女は、実に不機嫌そうに、如何にも心外だというように返事を返した。彼女からしてみれば、今でも魔王なのであろう。

「魔族の兵と戦うのは苦痛か?」

 マエミチが、少し同情しているように見えた。

「下手な同情はいらん!」

 しかし、すぐに思い返した。少し彼の好意が、親身なものだと思えたからだった。

「我を捨てた連中とはいえ、直接戦うのは心が引けるのは確かだ。末端の将兵の多くは、関係ないからな。」

 マエミチは、それを聞きながら、背中に、“甘いんだから。”“既視感が。”の視線が痛かった。

「なら、後方から本陣目がけて、長距離の魔法攻撃をかけてくれ。」

「分かった。しかし、大した損害を与えられないぞ。」

「問題はない。少しでも動揺させればいいんだ。」

 そして、4人に向かって、

「ガミュ、ギュアナ、マルバは俺と来い。追撃をかけて来る連中を蹴散らす。ウァレアは、そいつと一緒にいて、俺達の援護とそいつを守ること、それから、ついでに女神も護ってやれ。」

“私がついでにですって!私をいつも粗末にして!私を少しは尊重しなさいよ!” 

 後退した人間達の軍を見て、当然のごとく追撃をかけてきた。まずは騎馬隊が、進んできた。その数、約2000騎。ウァレアの放った火球が、慌てて張られた防御結界を突き破って、先頭を進んでいた騎馬兵数人をなぎ倒した。さほどの被害ではなかったが、多少、陣形が崩れた。そこにマエミチ達4人が躍り込んだ。

 大剣で次々に鎧を着込んだ騎士達の乗る、これまた鎧を着けた馬ごとたたき切ったり、叩き落としたり、馬の首を切り落として、騎士達を落としながら、幾つもの魔法攻撃を放って、騎士達を押し潰し、黒焦げにしていった。

「本当に、相変わらず凄まじいわね、こいつらは。これなら、存外早く片づくかも。大体勇者達がいない方が、上手く、早く行くんじゃないのかしら?」

 女神パエラは、喜んでいいのやら、心配した方がいいのか、迷っていた。

 追撃隊が瞬く間にやられてしまった魔王軍がどう出るか、マエミチは思案していた。兵を小出しにせず、大軍で一気に方をつけた方がいいはずだったが、それには状況把握が不可欠である。

 ウァレアに複数の式神を飛ばさせた。

「3000程度の兵だな。あ、それに少数だが別働隊がいるな。迂回して、後方からまわり込むつもりか、ここをやり過ごして、本隊を狙うつもりか、というところだな。」

“相変わらず単純で、小狡いことを考える奴らだ。”パエラとマエミチは、珍しく意見が一致すると共に、吐き捨てるように思った。

“あの馬鹿どもはいるかな?その可能性は少ないか。二手に分けるのも不味いか。万一のこともあるしな。”

「先手を打って、3000の方に特大魔法攻撃をして、直ぐに別働隊の方に向うぞ。」

“それだけでは、止められないか。”やはり二手に分けるか、と思い直した。

「お前は長距離から、牽制して足止めをする魔法攻撃をしていろ。ブエラも残って、こいつを援護しろ。それから。」

 パエラを見た。

“何よ。今度は何をやらせるのよ。”彼女の不満顔にかかわらず、

「2人が危なくなったら、直ぐに3人で転移して逃げてくれ。」

“何よ!またぞろ、私を乗り物扱いにして!なんなのよ、もう!”彼女はブエラとともに、露骨な不満顔を向けたが、彼には取り合ってもらえなかった。

 4人が消えた後、元魔王、アウモは指示された通り、長距離からの魔法攻撃で三千の兵を牽制した。攻撃している場所が悟られないように、火球は多少方向が変えて飛んで行く。威力は、多少落ちるがやむを得ない。かつ、頻繁に場所を変え、時には移動しながら放った。これで、精度も落ちる。ブエラは時々飛び出して、魔族の兵をなぎ倒しては、逃げた、ヒットエンドラン、を繰り返した。逃げる方向も、やや異なる方向で、かつ、幻覚魔法も用いた。

「卑怯者!逃げるか!」

との声も無視した。時々は、言い返した。

「こちらが背を向けると、勇敢になるもんだな!」

などとなじりながら走った。

“戦い慣れておるな。さすがに、異世界の元勇者だな。”

 一方。戦いは、事前に相手の位置、情報を得た方が有利になる。魔族の一隊、約100人は、ヨツユキに捕捉されていた。ただ、彼らはそれに気がついてはいなかった。

 目の前に現れた若い人間の男が、

「本来のお前達の魔王は、我らと共にある。どうだ、我らと魔王とともに、邪神達とその手下を倒し、人間達と共存しないか?」

と大音声で呼びかけた。誰も反応するはいなかった。せせら笑うばかりだった。

「負け犬がどうかしたのか?」

 そんな声も聞こえてきた。誰からも、本来の魔王のことに忠誠心を感じている様子はなかった。

 溜息をつくと、彼は首を縦に振った。火柱、爆裂、冷気、雷、熱線、十字剣のような光等が不利注いだ。

「うわ!」

 半数が倒れた。何とか避けた者達が、“反撃だ。”と身構えた時、彼らの前に、4人の男女が飛び込んでくるのが見えた。たちまちのうちに、彼らは叩き潰され、真っ二つにされ、体に大穴があいて血を噴き出して倒れていた。

 マエミチ達は、少数の襲撃隊を倒すと、直ぐに戻った。結局、足止めを喰っていた3000の魔族の部隊は、ヨツユキが合流して戦い、壊滅的な損害を受けて、ほとんど総崩れになって、撤退していった。 

「そのまま撤退するのが上策だな。残兵力を、まだ有利かもしれないから、相手の再建が整っていないうちに、全て、即投入なら、まだましな策と言えるが。。」

「多分、もう一度中途半端な攻撃をかけて来るわね。」

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