第7話 勇者達の性格2

 それに比べると、後の2人は単純かもしれない、と彼は思った。ブエラとアンドラは、共に騎士の家柄で、実際、比較的、裕福な中で育っている。騎士であること、自らの出自、家柄に誇りと義務感と使命感を持っている。ブエラは地元の、かつ聖剣を持つ家柄であるから、色々とがんじがらめなところがあるし、本人の性格自体がやや四角四面である。

 それに対して、アンドラはここでは何もないし、家の立場もブエラのほどのしがらみもない。聖剣も一応与えられている。彼女の性格もあって自由度が大きいし、かなり自分がすべきだと思うところに動いている。また、そういう彼女に好感を持って、彼女に従う仲間、部下に恵まれている。その意味では、ブエラは一人で孤独なのだ。彼らは、彼女の自由さや純粋な正義への行為を支持し、支え、苦悩や困難には彼女を身を呈しても護ろうとする。社会全体のことになると、ブエラの方が改革が必要の必要性に関心が強い。アンドラの方が、貧困や差別、不正への怒り、というかに敏感だし、よく見ているようだが、具体的に国家なり、社会の改革をあまり考えてはいないし、根本的な原因に思いを浮かべることは少ない。それが的外れに近いとしても、ブエラは真剣に、具体的に考えようとはしていた。そして、そのような勢力と接触を持っている。かと言って、空想的なグループ、実は権力志向の怪しげなグループとは距離を置く、慎重さ、用心深さを持ち合わせている。アンドラは、特定のグループに、国政にかかわることで積極的に接触しないし、実際あまり関係してない。その代わり、慎重さも用心深さもない。それは、彼の仲間、部下達がやっている。逆に、ブエラの周囲は悪意はないにしても、自分の考え、期待、理念などをを彼女に…という者ばかりだった。

「どいつもこいつも、危ういかと言えば危うい連中だが。」

“助けたくなるのは。”とまで思ったが、“また、余計な世話を焼くつもりでは?。”と睨む4人の視線を感じて、思っていることを呑み込んだ。

「お前達から見てどうだ、あの勇者達は?」

 ギュナアとマルバは、自分達に振られて迷惑顔だった。

「実力は私の方が上ね。」

「それには同感。だから、私よりも当然下。」

「私より、弱いあなたと同程度ではないの?」

睨み合う2人に、

「分かっているだろう。力のことではない。」

 彼の叱責を受けて、

「これだけはっきりしていると、陥れて暗殺するのは難しいかも。」

「私達の場合は、私達を殺すことに、単純な利害の一致があったから。」

 二人とも魔王討伐前に陥れられて暗殺されている。彼女らの世界でも、やはり複数の勇者がいた。

「あんたは、陰謀に加わった方だもんね。よく分かるんじゃないの?」

「その言葉、そっくり返してあげるわよ。」

「フン。2人とも主殿を殺そうとしたんだろうが。」

「…。」

 ガミュの指摘に2人は言葉が出なかったが、

「まあ、苛めるな、あまり、2人を。お前は、最初から私を殺そうとする側だったのだから。」

「それは…、確かにそうだが、…主殿を知らなかったからだし…。」

 急に悲しそうな顔をしながら、子供のように頬を膨らませた。マエミチは、彼女を抱き寄せながら、

「今、お前達に期待しているのは、陰謀、裏切りに加担した経験なんだ。」

 2人の方を見て、あらためて訊ねた。その目には、憎しみとか、それに類する感情は入っていないように見えた。

“一寸、この2人って、そんな悪だったの?”女神パエラは、目を見開いて驚くところを必死に抑えて、心の中で大声で叫んでいた。彼からは4人の女達のことは、以前の世界の魔王の娘、勇者、土地神としか聞いていなかった。それだけで納得していた自分を、自分のことながら呆れてしまった。“よく、危ない女達を連れてるわね。”契約とか何とかで逆らえないようにしているのだろうが、その気持が、分からないと思った。悪党はかえって使えるからかもしれないが、彼の目は優しすぎるように思えた。“私に対する視線との差は何よ。まあ、肌を重ねている関係があるだろうけど。”と思おうとしたが、肌を重ねたからといって、優しい感情を抱くというわけではないことも、よく知っていた。“こいつとはどんな経緯があったのかしら?”元土地神のウァレアの方に視線を向けてしまった。それに気がついた彼女は“何よ?”という顔をした。

「誰もが加わる可能性はありそうですね。かといって、それで処断できないかも。」

「それぞれを認定した勢力が背景にいますから、混乱を引き起こす可能性がありますね。」

「何か分かったとしても、事前に勇者そのものを潰すわけにはいかないか。」

 彼は、困った表情を見せた。元勇者2人はすかさず、慰めるように、彼の腕を取り、自分の胸に押しつけた。元魔王の娘と元地上神がそれを引き剥がしにかかった。

 事態が動いたのは、しばらくしてからだった。

 

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