第6話 勇者達の性格

 勇者達は、また睨み合っていた。作戦会議の場で、無言のその圧力に、間に入る将軍達も悩ましげな様子だった。困った彼らの視線が、1人に集まっていた。マエミチ・ジネンにである。自分に向けられた視線を感じて、マエミチは、ゆっくり女神パエラの方に顔を向けた。“止めてよ!私に振らないでよね!私達だってわからないわよ!”

「女神様。私から発言してよろしいでしょうか?」

 “ほ。”それでも、パエラは威厳を正すように、背筋を伸ばし、胸を突き出した。そこから分かる豊かで、形のよい胸に、将軍達は視線をつい向けてしまった。

「あなたの考えているところを、言いなさい。許可しますよ。」

 彼は女神に軽く頭を下げてから、将軍達を見た。彼は注目の中、おもむろに口を開いた。

「今回の戦いは、重要な戦いではありますが、最終的に魔王を倒すことが、勇者様方の目的です。ここで、あまり責任を感じられることではありませんよ。それに、私は魔王を倒すこと以外については、副魔王を、四天王をどの勇者様が倒したということではなく、戦い全体への貢献ぶりを評価して報告するつもりですが。」

 勇者達の顔を順々に見た。勇者達は複雑な表情を見せていた。

「基本的には、将軍方がたてられた作戦通りとして、私達が正面から突破しますから、ブエラ殿、アンドラ殿はすかさず突入していただく、マリウサ殿、シシャ殿は、正面からの攻撃に気を取られて、手薄になるのを見て、左右から侵入していただくということでよろしいのではありませんか?」

 彼としては、ブエラとアンドラを見てられるし、マリウサとシシャと一緒にしないということだった。一つにまとめるのがいいかもしれないが、四組が先頭を争って進むのを調整するのも困難だとも思った。

 マエミチが自然な様子で、パエラを見た。“なによ?”しかし、直ぐに何が求められているはすぐに理解できた。

「私も同じ考えです。」

 威厳を取り繕って言った。

「ちょっと、私に、突然振らないでよ!」

 人がいないところで非難した。

「女神様の立場もあると思って振ってやっただけだが。」

「う…。」

“何か言ってやらないと”

「4人の勇者達については、それぞれどう思う?」

「そうだな。」

 彼は、考える風にしてから、説明しだした。

“女相手に、覚めているわね。”

 その後のことだった。

「勇者シシャ殿。何が仰りたいのですか?」

 勇者シシャが、声をかけてきたのだ。

「話があるの。2人だけになりたいの。」

 彼が引き連れている女達を、何処かにいかせろということだった。

「彼女達は一心同体。それに、私は後で彼女達には全てを話します。秘密を作って疑われたり、嫉妬されたくないのでね。彼女達も私も、さらに他人には話しませんが。」

 シシャはしばらく沈黙したが、

「私と手を組まない?」

「私は、勇者様方、皆さんと手を組んでいると思いますが。」

「私とだけということよ。」

 苛立たしそうに言って、窺うように見ていた。

「あなたが魔王と戦うことでのことであれば、何でも協力いたしますが。」

「いい加減にしろ。そんな善人の仮面を被っていたって、私には分かるんだ。あんたも、私と同じ野心家なんだろ。」 

 金髪をショートカットにした、妖しさと野生、いや野良猫的な美しさを感じる女だった。

 ソクラテスの情報だと、三位一体派教会が認定した勇者だが、下層社会出身で傭兵をやっていた女である。かなりヤバイことや身体を売ることもやっていたようである。それでも悪事には手を染めてはいないらしい。カリスマ性があり、勇者認定前から、周囲に仲間が、集まっていたらしい。

「私はね、この世界を変えたいのよ。」

 少ししんみりとなって、声を落とした。

「明日の食べ物もない、苦しい者達同士で争って、奪い合うことのない世界をね。」

 心の内を探るような目をしているジネンを見て、彼女は慌てた。一笑に付した者、理想としては同意した者、不可能だと説得する者、理解出来ないという者、賛同する者もいた。

「どういう社会なら、制度なら実現出来ると考えているのですか?心優しい王様を選ぶなどでは実現できませんよ。」

 彼女は言葉に窮した。“こいつは、何を言っているの?”“真意に嘘はないようだが。”

「そのうち、教えて下さい。では。」

 彼は頭を下げて、彼女に背を向けた。そして、歩み出した。少し行ったところで、勇者マリウサが現れた。

「シシャと何の話をしていたのかしら?」

「世から貧困をなくす方法についてです。」

 彼女はいかにも疑わしいという表情を見せて、

「あんな奴が、そんなことを言うとは思えないわ。」

 ソクラテスによれば、彼女は貧しい農家の娘である。物心ついた時から両親の手伝いをしていた…一家は、働けど働けど生活は楽にならずだった。そのうち、一家の生活のため奴隷に売られた。奴隷とは言っても、使用人に近いもので、仕事はきつかったが、実家に比べれば楽だと思った。また、主人一家は、かなり身分の高い貴族だったが、それなりに優しく、功績に応じての見返りもあり、最低限の教育も与えてくれた。魔法と剣の才があると分かると、仕えている魔道士、騎士に手ほどきさせた。そのうち、再洗礼教会から、勇者認定された。素直な性格が、体全体に反映しているような赤毛の美人である。やや小柄だが、元気が服を着ているような女だった。孤児院への寄付もしたり、貧困解消について心を砕くところもある。人が集まるというカリスマ性はないが、一緒にいると、ついていきたい、盛り立てたい、守ってやりたいと思わせるところがある。

「皆が、少しでも豊かになる世界にしたいとは思っているけど。」

 少し話してみると、“シシャより具体的なことは考えてはいるか。社会変革ではないせいもあるが。”

「マリウサ殿。決してあなたに害を与えることはしませんよ。」

 そう言って、一方的に話を打ち切って背を向けた。2人の顔を思い浮かべながら、“相入れないわけではないが、やはり相容れないな、この2人は特に。危ういのは、マリウサの方だろうな。”

「何を考えているの?」

 女神パエラが訊ねた。

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