第5話 勇者にも都合がある

「他の3人は、伝説の聖剣を求めて出ているのに、どうして彼女だけここにいるのかしら?」

「代々家に、伝わる聖剣を持っている以上、そんな争いをすると立場がないからだろうさ。それに、実績を一歩でも早くものにする戦略をとるのも有効な策だろう?それに、成功したし。」

「でも、あのままで大丈夫でしょうか?」

 女神が心配そうに、話に加わった。4人の女達は、気楽な様子で

「大丈夫じゃない?四天王の軍をあれだけ叩いてやったんだからさ。」

「後は奴の責任だ。」

「あれ以上やったら、彼女の立場がないしね。彼女が四天王を倒さないとね。」

「それはそうだけど。」

 女達の会話に、今度は彼が介入した。

「他の3人の手助けにいくぞ。転移魔法は頼んだぞむ。」

「大丈夫だ。天眼魔法で位置は確認しているしな。」

「連続してやってもらうが、体の方は大丈夫か?」

 心配そうな彼の表情に、“大丈夫じゃ”という言葉を呑み込んで、元地上神は、

「確かにかなり疲れるな。その時は、お前が支えておくれ。」

としなだれかかった。3人の痛い視線を楽しんだ後、

「では、第一の転移魔法じゃ!」

 彼ら6人は光の中に消えた。

「アンドラ殿。加勢します。」

 魔族の一軍の中で孤立して一人で戦っている勇者アンドラは、その声に振りかえると、女神が異世界から連れて来たというマエミチが魔族兵を突き破り、進んでいるのが見えた。さらに彼に従いながら、彼に負けず劣らず魔族兵達を倒す4人の女達の姿も目に入った。“助かった”と思った。聖剣を得ることを目的に進んで来たが、魔軍が町に迫っているという報を耳にし、迷うことなく、彼女は魔軍から町を守る方を選んだ。比較的裕福な、豊かな都市国家に属する騎士の家柄の彼女が持つ誇りは、どうしても捨ててはおけなかった。

「お嬢は、仕方がないな。」

 中年の戦士は、彼女の父とも親しい歴戦の戦士だったが、笑った。チームのメンバーは全員、

「勇者様の言われる通りです!」

と言ってくれた。

 しかし、予想以上の数に、彼女ですら、自分を守るので精いっぱいとなってしまっていた。

 5人の圧倒的な力、新たな強大な戦力の参入に、次第に押された魔軍は、それ程時間がかかることなく総崩れとなっていった。チームのメンバーは、重傷者はいたものの、誰も死ななかった。

「ご助成ありがとうございます。」

と頭を下げた彼女に、

「私の役割は皆様をお助けすることですから。」

 マエミチは、そう言って、応急処置の回復魔法を重傷者に施した。それが終わると、6人は魔法陣の中に消えた。

「裏切り者!」

「あ~ら、裏切っていないわよ~。だ~って、最初からあんた達の仲間じゃなかったもん~。」

「だから、こんな女、信頼できないって言ったのよ。」

「もう止しなさい。」

 勇者マリウサは、力無く、勇者シシャの傍らで嘲笑う少女を罵る仲間達を窘めた。マリウサは、聖剣を手に入れた。喜んで、元来た道を歩いていると、マリウサの仲間を人質に、聖剣の引き渡しを求めるシシャ達の一行が現れた。迷った挙げ句、彼女を救うため、聖剣を引き渡した結果がこれだった。

「欲しいものが手に入ったんだから、早く目の前から消えてちょうだい。」

 そのマリウサを嘲笑うような顔を向けたシシャは、聖剣の切っ先をマリウサに向けた。

「負け犬には、消えてもらいたいのよ。」

 気がつくと、倍以上の数のシシャのチームが周囲を取り囲んでいた。しかし、マナウスのメンバーは、誰一人も逃げようとはしなかった。

「いい加減にお止めなさい。」

 その声に誰もが、声のする方向に顔を向けた。マエミチが立っていた。そばには4人の女達、少し離れて女神がいた。

 返事をすることなく、シシャは斬りかかった。数合のうちに、聖剣は彼女の手を離れて、大地に突き刺さっていた。

「それを持って、お引き下さい、勇者シシャ殿。」

 彼女は悔しそうだったが、黙って、剣を手にして、消えていった。彼女の仲間達も、それに従った。

「これをお貸ししましょう。聖剣ムラマサを。」

 彼は、どこからとりだしたのか、手にした鞘に入った剣を、鞘ごとマナウスの方に投げた。

「他人の物を貰う屈辱は、耐えられないわ。」

 下を向いて、自暴自棄を感じさせるような感じさせる声だった。

「あげるのではないですよ、貸すだけですよ。」

「…。どちらも同じこと…。」

「魔王を一日も早く倒すために、それをお貸しするのです。勇者であれば、そのような私情にとらわれず、魔王を一日も早く倒すことだけを考えるべきですよ。そう思いませんか?」

 彼女は、ムラマサを手に取った。そして、か細い声で、

「ありがとう。」

と言った。

「あまりにも、お人好しではないか?あのシシャくらいは、殺した方がいいのではないか?一人減っても関係ないだろう。元々、奴らなしでも十分なのだから。」

「珍しくいいことを言うな。」

「賛成ですね。」

「珍しいね。全員一致なんて。」

 彼は、女達の不満そうな顔に苦笑したが、女神の方を向いて、

「女神様は、どう思う?」

「不愉快この上ないことですが、お前の女達に賛成です。」

 彼は、苦笑するしかなかった。

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