第4話 この世界の実力
コボルト達が集結してきた。かなりの数が周囲を囲むようにして集結しているから、誰か統率しているのがいるのだろう。
「ご主人。大型種も混じっているぞ。5体だな。」
角を生やした黒髪の女戦士が囁いてきた。
「そいつらが親玉か?集団指導体制か?その中の一体が親玉ということか?ところで、その5体はまとまっているのか?」
ご主人と呼ばれた黒髪の男が質問した。女は首を振った。
「全部違うな。2体、2体、1体で、その周囲の奴を従えてはいるようだが、バラバラな動きに見える。」
「デカイ一つの群れはないか。これだけ、派手に狩っているわけだから、集まってきてもおかしくはないか。」
「マスター。囲まれましたよ。」
「ざっと200体といったところですよ。」
栗色の髪の女騎士と燃えるような赤毛の女騎士が小走りでやって来た。言葉とは裏腹に、余裕たっぷりという感じだった。
すると上から、
「偵察してきたぞ。」
と言って降りてきたのは、銀髪の女戦士だった。
「ずっと後方に、さらにデカイコボルトの集団がいたぞ。」
「そいつらが、周りの奴のボスか?」
「どうも違うようだな。この騒ぎを聞きつけてきた連中のように見えるな。」
「そうか。兎に角、一暴れして、全滅させるか。」
4人の女達は、ニヤリと笑った。これからの殺戮を、心から楽しもうという顔だった。それが、彼には心から可愛らしいしいものに見えた。
「ガミュは、私と共に中央突破だ。ギュナアは右、マルバは左から来る奴らを倒しながら、ついてこい。後方の警戒も頼むぞ。ウァレアは、後方を攻撃しながら、全体を警戒しておいてくれ。わかったな。では、いくぞ。」
彼は、4人の様子を見ながらも、目の前のコボルト達を拳の一撃で仕留めながら進んだ。女達も同様に彼についてきた。
強力な魔法攻撃をするまでもなかった。聖剣や魔剣の力を引き出す必要もなかった。拳の、蹴りの一撃で次々仕留めることができた。剣の斬撃一つで数体が斬り倒された。大きな個体も例外ではなかった。小一時間で、この地域に大々的に侵入して猛威を振るっていた魔獣、コボルトの群れは一掃された。
この地域一帯の魔獣の制圧を依頼されたが、コボルト、ゴブリン達を2~3時間で終えてしまった。昼までですら、まだかなり時間がある。
「どうする?まだ、かなり時間ががあるが。後方の魔族の一隊をやるか?」
他の世界の魔王の娘であったガミュは、暴れたりないという顔をしていた。
「これだけ暴れまわまわったんだから、気になって出てくるのではありませんか?」
「彼らは、半ば配下のようなモノですからね。しきりに、見廻りの魔族が飛んで来てますからね。」
ギュアナとマルバ、ともに元勇者だが違え世界からである。
「動き出したようよ。」
遠くを見るように言ったのは、ウァレアだった。他の世界で拾った元地上神である。
「小休止して、待ち構えようか。実力を見て、…砦も落としてしまうか。」
小一時間後、5人は遭遇した
魔族の一隊を蹴散らして、一気に砦の攻略に取りかかった。
マエミチが、
「転真敬会奥義大進水!」
と叫ぶ。空間そのものが振動したかのように感じられた。それが、砦の魔力で強化された防塁に直撃し、既に張ってあった防御結界と慌てたて張った防御結界ごと崩してしまった。割れ目だらけのそれに向かって、ウァレアとガミュが火球、雷球やらをぶち込んだ。混乱する砦の中にギュアナとマルバが突っ込んだ。
「私も続く。援護しながら、後に続け。」
「ああ、分かった。しかしな、あの詠唱というかは、いつもいつも違うような気がするが。」
「確かに、前の時とちがう。」
「掛け声みたいなものさ。良く覚えていない。転真敬会奥義、小退金!」
そう言って、駆けいった。いたるところで、魔族達が潰れているのが見えた。呆れながらも、2人も、火球や雷球などを落としながら、後方を見ながら続いた。
ギュアナとマルバが、マエミチが、他の魔族を軽く蹴散らしている中、自信満々に出てきた巨漢の魔族を瞬殺した。彼の代わりに、側近くいたトカゲ顔の女魔族が、「2人がかりで卑怯な!」
と叫んだが、
「2人まとめて相手をしてやると言っただろう?」
後ろから声をかけられた彼女は、振り向く前に燃えあがり、炭になっていた。熱さをカンジル時間もなかったろう。
「情報どうり四天王配下の筆頭クラスの実力者ですね。率いる部隊もなかなかの実力だったはずですよ。事前の情報よりかなり兵力が多かったようです。申し訳ありません。」
家老のソクラテスが報告した。彼は壊滅した砦を調べ、事前の情報とその結果を吟味していた。
「事前の情報というのはそういうものだ、とかく。しかし、これからはますます事前の情報が大切だ。これからも頼むぞ。」
黒髪の堂々とした体格のソクラテスは、律儀に頭を深々と下げた。
「お前も飲め。」
そう言って、彼も4人の女とともに、ビールの入った杯を口に運んだ。女神パエラは、そうした彼らを見ながら、ビールを口に運んでいた。はっきりいうと呆れていた。今日の戦いからは、一歩離れた所から見ていたが、彼の強さはもちろんだが、4人の女達の力にも驚きを通り越して、呆れてしまう強さだった。実際に見ていても信じられないくらいだった。
「女神様が呼んだ勇者様は、かなり依頼をこなしたのでしょう。でも、気が早すぎませんか?明日もらあるのですから。」
声をかけてきたのは4勇者の一人、明るい赤髪で一番背の高い、代々武勇高い家柄で、父は一国の元帥、母は王族である。彼女は19歳だった。
「単なる夕食ですし、杯は2杯まで、明日に残らないようにしています。筆頭の配下を殺されたとはいえ、四天王が来るのは明日以降だと思いますから。勇者様。ブエラ殿。」
「?」
「魔族の砦。今日の昼過ぎ、この者達が落としましたよ。」
パエラは、静かに教えた。
「?」
ブエラはしばらく混乱していた。
「ですから、魔族の砦は既に、ここにいるメンバーで落としてしまったと言っているのです。」
パエラがあらためて教えたが、
「馬鹿な。」
ようやくそれだけが、口から出た。考えていたこと、皮肉や嘲笑も含めて全てが無効になったからである。彼女は、周辺領主と連絡を取って、魔族の砦攻略の準備をしていたところだった。魔獣、雑魚退治に苦労している彼らを横目に見ながらと思い込んでいた。
「明日にでも、四天王の一角との戦いについて議論いたしましょうか。」
「…ええ、もちろん。」
彼女の声は、虚ろなものだった。
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