第2話 召喚は5度目かな…

 「他の世界から、勇者を、召喚しないと駄目ね。」

 新たにまかされた世界の救済方法に頭を、悩ませていた。彼女は、どちらかというと、面倒ごとを押しつけられたと思っていた。普通のやり方では無理筋なのだ。異世界、問題の世界から見てだが、から強力で即戦力の勇者を召喚しないと目的を達成出来そうもなかった。面倒が一つ増えた。異世界から召喚すると一から教えてやらなければ、助けてやらなければならないし、この世界の面々を納得させなければならないからだ。しかし、そんなことは、言っ ていられなかった

「これにしましょう。」

女神パエラは立ち上がった。やや小柄で長い銀髪をそのまま自然に下ろした、清楚そうでいながら、肉枠的な感じの美しい、魅力的な姿だった。目の前に映し出した無数の候補者を凄まじいスピードで選択していった。最後の一人になった時、彼女は少し躊躇ったが、やむを得ない、他にはいないと思いいたり、決断した。 

 彼女はしばし精神を統一した。すぐに、彼女の前に巨大な光の輪が現れた。その中に、一つの影が現れた。光は次第に弱くなり、それと反比例するように、その影ははっきりし始めた。光がなくなると、光の輪があった真ん中に一人の若者が立っていた。黒髪で、わりと長身で、スマートだが頼りなさそうな体つきで、やや地味な顔立ちの二十台前半の男だった。”少年、少女の方が使いやすいんだけどな。“とは思ったが、成長させていく時間がないため、こういう選択になったのであるから仕方がないのである。

 男は、周囲をキョロキョロしていた。”当然よね。”少し優越感を感じながら、彼女は一歩前に踏み出した。胸を張り、威厳を正して、

「私は、女神パエラ。突然のことで驚いておられるでしょうが、私が召喚したのです。」

 出来るだけ優しく、それでいて威厳をもって語りかけた。“こういうのは苦手なのよね。”パニックになっても仕方がない状況であり、信じようとしない人間の方が多いのだ、本当は。選ぶ時点で、そのような人間は排除している。彼は、自分の言葉を受け入れることが出来るはずだ。二十歳過ぎて、受け入れる柔軟性を持つというのは、かえって心配なのだが。ただ、この種族は多神教的世界を自然に受け入れているから大丈夫だと無理矢理納得していた。更に、哀れな男を救済してやらねば、と彼を見据えると、意外な反応が返ってきた。

「またか。今回は、可愛い美人の女神様か。」

 男は、落ちついているというより、慣れたような、冷め切っているかのような態度で彼女を見つめていた。“え?”と戸惑ったが、思い当たることがあった。“そうだ。噂では。”勇者召喚を二度三度経験した者が、稀にいるという噂を思い出した。こいつもそうなのか、と思った。

「こういうのって、何回目かな~?」

つい地が出てしまったが、慌てている彼女は気がつかなかった。

「何回目だと思う…思いますか、女神…女神パエラ様?」

“こいつ~!”と思ったが、“三回目の話は聴いたことがあるから、もしも、それなら4回目?念のため、もう一つ多くして、”

「5回目かな?」

 男は馬鹿にするように微笑し、

“こいつ~。6回目と言えばよかったか…な?”

「5回目、6回目なら、もっと希望をもって、今度こそもっと上手くやってやろうと思ったものなんだが。」

「じゃあ、何回目だというの?」

「13回目だよ。神々を通さず召喚されたのは、他に三回だよ。」

 唖然とする女神を満足げそうに見て、

「自己紹介がまだでしたな。ジネン・マエミチ、21才。ところで、勇者として戦う条件なんだけどね。」

 口をぽか~んと開けている女神に条件を言い立て始めた。

「まずは、これから行く世界の情報を十分教えてもらいたいね。中途半端な知識だけで放り出されたらたまらないからな。」

 この生意気な態度に、腹がたったものの、戦いを赴くのだから当然のこと、と思い返して、ぐっと堪えて、

「もちろん、あとで、もうこれ以上必要がないというくらいたたき込んであげるわよ。」

 本当は、下界におりてから道々説明していけばいいくらいに考えていたのだが。

「それからだな、当面の生活はどうやってしのぐのだ?武器、装備、旅の装備も含めてだが。聖剣や聖鎧とかは用意してくれているんだろうな?用意してあるのならどの程度の格のだ?」

「あんたね~。ちゃんと考えているわよ、私を誰だと思っているの?知恵の女神なんだから。自分の能力とか、もらえる特殊能力とか気にしたら?まとめて説明してあげる。」

「そうか、それは有り難いな。自分が同行するから、道々そろえていくつもりだ、これから考えるなんて言われたら、たまったもんではないからな。」

 “う!”豊かな胸を、一層突き出すように、胸を反らしながら、自信たっぷりの風をしながら、実は何もまだ考えていなかったのだが。

「自分の能力は把握しているし、もらえる特殊能力も後から聞けることだし、成功報酬についてなんだが。」

“もうこいつ、私が寛大な態度をとってあげていたら、いい気になって!”怒りを口にしようとする前に、出された要求に声がでなくなった。その反応を見てか、

「まあ、これは取り下げることとして。希望ということで、可能ならということだが。」

とあっさり取り下げたが、新たな要望を言い出した。

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