勇者召喚も5度目までは、希望に燃えていたよ。
確門潜竜
第1話 一見、謙虚過ぎる男
言い争っていた4人の女勇者達の声が一瞬静まると、女神のわきに立っていた男は、ツカツカと皇帝の前に歩み寄り、そして、跪いた。
「皇帝陛下。私に勇者様が魔王を倒すための助力をすることをお許し下さい。」
4人の女勇者だけでなく、皇帝の広い謁見の間にいる者達は唖然として、声も出なかった。ひたすら、異世界から女神が連れて来たという、やや長身だが、大柄、筋骨隆々とは言えない黒髪の、装も黒を基調にしたものでまとめている男と彼を連れて来た女神を交互に見るばかりだった。女神はというと、彼の言葉は、私の意思であるというような顔をしていたが、
“あいつ、何を言いだすのよ!”と心の中ではパニック状態だった。それでも、落ちついた風を必死に装いながら、彼の言葉と行動を注視するしかなかった。
玉座の、初老の皇帝は、白髪混じりの髪の毛を、指でしばしもてあそんだが、さらに薄くなっている部分も撫でて、自分が決めるしかないと観念して、
「しかし、異世界からの勇者殿。そなたは、勇者としての名誉を、簡単に捨ててよいのか。そなたを連れて来た女神様の手前…。」
皇帝の言葉に、すかさず
「もとより、女神様が私達に託したのは、1日でも早く、魔王、邪神からこの世界を救うことです。そのためなら、私自身の名誉など大したことではありません。勇者様をお助けして、より早く魔王を倒せるのなら、それに超したことはありません。これこそが、私達を召喚した女神様の意志であり、私達の総意であります。」
この言葉に、流石に4人の勇者達は何も言えなかった。彼女らの認定者達はホッとした表情を微かに見せた。他に3人の勇者達が現れ、更に女神が異世界から召喚した勇者を連れて来ていたので、どうしたものか、内心では困りきっていたのである。もちろん、二大教会、大大公、準同盟国ながら微妙な関係を持つ隣国、勇者を立てて利益を、という思いは当然あった。しかし、ここまでくると、動くに動けなくなってしまった。他の3勢力を敵にまわしたくないし、下手をすれば、他の中小諸国も敵に回して孤立しては困るが、かといって、まとめる方策も思いつかないし…と。皇帝も、“日頃、ああでもない、こうでもないと煩いくせに、こんな時に黙り込むな。そもそも、お前達のせいだろうが!”と叫びたいところだったが、これほど皇帝の権威が高まったことはあまりないと実感出来た。ここを乗り切れば、皆に貸しを作ることになる。皆が助かったと思ったわけだが、皇帝は、心配ごとが思い浮かび、一つ違和感を感じたのだ、目の前に跪く異世界人の言葉に。
「流石、女神がお連れした異世界の御仁。しかし、どの勇者の元に従うと言うのか。」
誰もが、何と二度、皇帝に心から感謝した。
「もちろん、4人の勇者方全てに。力を合わせていただければ、平穏な世界が一日でも早く迎えられるはず。それに、どなたが真の勇者に相応しいか、判断できましょう。」
4人の勇者達は、複雑な顔だったが、何も言えなかった。言ったら、自分の立場が悪くなるからだった。彼女らの認定、支援者は冷静な態度を保っていた。考えあぐねていたが、反論すべきことではなかった。
「分かった。正に正論。勇者方も同意のはず。」
皇帝の言葉に反論の声は、上がらなかった。
「ところで。」
言葉を一旦切って、
「異世界から来た御仁。あなたは『私達』と何度か、言われたように思ったが?どういうことかな?」
違和感を質問した。男はニヤッとした。
「申し訳ありませんでした。失念しておりました。では、失礼致します。」
立ち上がった彼は叫んだ。
「我が4戦姫と家老、出でよ!」
彼の前に4人の女戦士と男が一人現れた。女戦士達は、皆異なる出で立ち、種族だったが、皆若かった。男の方はというと、30台半ばくらいで、頭からフードを被っていた。
「異世界で眷属にした者達です。いずれも、その世界で一騎当千の強者。この世界においても同様です。男は、皆様との連絡を取る者です、その才は一国の宰相にも相応しい者です。彼女らとともに、勇者様方を助け、速やかにこの世界をお救いいたしましょう!」
笑い声は上げてはいなかったが、勇者達の頭の中には、彼の高笑いが聞こえたように思われた。
女神は、全てを知っていたという顔で落ちついている風だったが、
「え~、何よ!このハーレム軍団は。そんなの聞いてないわよ!この男は…。」
と心の中で叫んでいた、いや、泣きさけんでいた。
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