第11話 次元


 岩があって、石はもっとあって、雲一つ無い灰色の空。果てに広がるは地平線、木も草も無ければ、生き物なんか居そうに無い場所。


 本日二度目の次元において、オートは身の丈が四、五メートルはあろう六芒星と対峙していた。隣に並んでいるのは白桃の髪の少年で、少し離れた場所で三つ編みの魔法少女が飛んでいた。


 ハクトの話だと、夜更けに魔獣が出るのは久しぶりだという。以前は当たり前のように一日二回出ていたらしいが、そんなものは今の少年にとって知りたい情報じゃない。


「なんで、紺色の野郎が見物きめてんだよ」


 次元に入り魔獣を見つけるなり、紺色の男は大岩へと腰かけた。


 他の二人が戦闘状態に移行しているのにも関わらず、一人だけ安全地帯で胡坐をかいている。ハクトも当たり前のようにしているものだから、オートは気に喰わなくて仕方ない。


「……通過儀礼なものだから」


 つむぎが言ったが、それがどういう意味なのか全く分からない少年が居た。今すぐにも踵を返して、首根っこ掴んで戦場に引っ張ってってやりたい。


 しかし目の前の魔獣は、オートの考えを赦してなんてくれなかった。


 六芒星の魔獣が方位磁石のように回転した瞬間、無意識にオートは高く飛び上がった。


 殺気を感じたら、とりあえず飛ぶ。それが彼の行動原理だ。ところが足元の光景を見て、少年は失態を犯したと痛感した。


 魔獣の身体の表面には、気持ち悪いくらいビッシリと無数の針が付いていた。それが回転によって放たれ、真っ直ぐ地上の二人に襲い掛かっていた。


 今までの戦いは殆ど一人だった上に、ノイリは自衛手段を持っていた。完全に二人の存在を見落としていたオートだが、彼女達とて心配されるような存在ではなかった。


 水色の魔法少女が杖を差し向け、魔法陣を張っていた。


 彼女の得意技は、空中に円を出して防御を張るというものだ。六芒星の飛ばした数多の針は、二人の目の前に広がった盾が全て防いでくれたようだった。


 安堵の息を吐く前に、少年は呼吸を止めていた。


 己の身体の血流と対話するかのように、心の中で一から数字を並べ始めた。十で撃ち込みたい彼だが、このままだと魔獣との距離が詰まる。


 間に合わないのは分かっているので、一段階だけ攻撃を試そうとした。空中で身体をしならせると、靴底に林檎くらいの大きさの炎を灯す。


 勢いが消えて無くなってしまう前に、オートは一本の腕の根元にカカトを思いっきり振り下ろした。


 その瞬間、凄い勢いで少年の後頭部に痛みが走った。


 その正体が判別する前に、オートは地面へと叩きつけられた。


 止めていた息は吐き出されてしまい、目の前の世界は暗転した。


 自分が無様に地面を転がっていくのを理解した彼は、とにかく膝で制動をかけた。


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