第10話 記憶


 風呂から上がった二人は、つむぎの入れてくれたお茶で一息ついた。オートは初めて飲むものだったが、柑橘系の香りが心を落ち着かせてくれるようだった。


 それからハクトが、今までの自分の身に起こった出来事を話しはじめた。まず彼は廃屋で目覚めて、紺色の男と出会った。その時点で何の記憶も持っていなくて、いきなり魔物に喰われたという事実を突きつけられる。


 次に結界という場所に連れていかれ、半ば強制的に魔物と戦わせられる羽目になる。そこで魔法の使い方や、格闘手段を紺色の男に覚えさせられたという。


 話を聞いたオートは、まるで二人がノイリと自分のような関係性のように思えた。紺色の男は額面通りに『コン』という名前らしいが、呼称なんて今の彼には心底どうでも良かった。


 そこから魔法少女達と出会い、魔法の国の事情や魔物が来る理由などを聞かされた。もしかしたら、人間に戻れる方法もある可能性も提示された。


 利害の一致した二組は、協力して今日まで魔物を狩っているのだという。そこでオートは、一つの疑問が頭に浮かんだ。


「やっぱり、お前と紺色も魔獣なんだな?」


 オートの台詞に、ハクトは黙って頷いた。どこか寂し気な表情になったのは、少年は欠片も気にしなかった。


「……でも、ハクトは元々は人間。……あなたも」


 つむぎが無表情で呟くように言った。


「どうして、そんなことが分かるんだ?」


「……わたしとハクトと君は、同じ学校に行ってたから」


 記憶を亡くした少年達と違って、少女達は以前のことは知っている。つむぎは正確に、二人が人間だった時を知っているのだ。


「……あなたは中央あゆみ、ハクトは嘉藤ナカ。二人は仲が良かったみたい」


 つむぎの台詞に、何故かハクトも驚いていた。


 彼女が言うには、二人はいつも行動を共にしていて、学校に居るときは常に一緒だったという。オートが彼に対して、コンのような嫌悪感を覚えなかった理由は、そこにあるのかもしれない。


 二人の昔の記憶がある人間が居るのであれば、それは何よりもの証拠。しかし、当のオートには実感の沸かない話だった。


 学校に通って、勉強したり、遊んだり。そういう光景は自分に似つかわしく無いんじゃないか、と少年は思えた。記憶が無いせいで、オートは普通の学生というものが分からないのだ。


「何で……覚えてないんだ」


 オートの台詞に、ハクトは悲しそうに首を振った。


「それは……僕らも分からないんだ」


 ごめん、とハクトは言った。彼が謝る必要なんて何処にも無かったから、オートも首を左右に振った。


「……何にせよね。君たちは被害者だから」


 つむぎの言葉を耳にして、オートはハクト達が戦う理由が分かったような気がした。そして少しだけ、彼らに協力してもいいような気持ちが生まれたのだった。


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