第8話 戦闘
紺色の男を先頭に、少年少女一行は次元の移動を開始した。
オートの背後にはハクトが居て、上空を魔法少女三人が杖に乗って飛んでいる。
彼を取り囲んでいるのは、逃げない為の編成なのだろう。一二三を取られてしまっている以上、少年は既に逃げる気なんて起こらなかった。
無意味に進んでいるように見えるが、実際は紺色の指示に従っていた。
おそらくノイリ同様、魔獣を感知する何かを持っているのかもしれない。この時オートは既に、他の全員がここに来た訳を理解していた。
つむぎは昨日、魔法少女は魔獣を倒す存在だと言っていた。少年を連れてきた理由は、人間界に残せなかった為だ。
見張りを付ければいいのに、とオートは思った。全員で着手しないと勝てない魔獣なんて、そう多くは無い筈なのだ。
目の前の紺色の男が地面を蹴ったのを見て、オートとハクトは同時に足を止めた。
空中で身体をしならせた男は、紺色の髪を揺らしてスイカ程の火の玉を放った。
いったい何をやっているんだ、こいつ。いきなりの行動に、少年は呆気に取られた。
「……マジ狩りの時間だ!」
謎の大声と同時に、ハクトと魔法少女達が戦闘態勢を取るように身構えた。
もしかしたら魔獣が現れたのかもしれないが、オートの先には地平線しか映っていなかった。
地平線の彼方から大きな影が現れた瞬間、紺色の男が飛び掛かった。
向こうから仕掛けてくるのを待つか、先制攻撃を放つか。なんて躊躇をしたようには、全く見えなかった。
これまでの戦闘において、オートは先に手を出して素晴らしい未来が見えた試しが無かった。
あいつは無鉄砲なのか、と少年は乾いた笑いを浮かべた。
ハクトも駆けだしたが、オートはのんびり歩いていった。
ノイリ以外との混戦の経験が無い少年は、彼らを先制させて様子見という手段に出た。
そもそも戦いに協力するとも言ってないし、してくれとも言われていない。無闇に手を出して巻き添えなんて勘弁だ、とオートは思った。
ゆっくり歩いて二分ほど、視界に入ってきた魔獣は以前に少年が戦った覚えのある相手だった。
腕と足は筋肉質で、青色の鱗をつけたゴリラのような身体。小さい子供くらいなら丸のみ出来そうな大きな口、怪獣のような鋭い眼光。
彼らの対戦相手は、前にオートが倒した筈の大ワニだった。
同じ種類の動物が何体も居るように、魔獣もそうなのかもしれない。オートが戦った相手は緑色だったが、今回はウロコが青かった。
魔力の使い方が分からなかった当時は、ノイリの協力を得て倒した相手だ。二対一で勝てる相手ならば、五対一で余裕だろう。
他人の戦闘を、蚊帳の外で見れる機会など、殆ど無い。折角だから、と少年は彼らの戦いを腰を据えて見学する気になった。
見事なものだ、と少年は思った。男二人と魔法少女は、的確に連携というものが取れているように見えた。
紺色とハクトが前衛で、魔法少女が後衛だ。
近接で炎を叩きこむ紺色と、氷の刀を振るうハクト。
魔法少女達はピンクとオレンジが遠距離から光線を放ち、水色の三つ編みが時折魔法陣を出して防御策として使っている。
まさしく一方的な攻防というもので、しばらくするとワニの魔物は灰燼と化した。
これはもう集団暴行だな、どっちが悪者か分かりやしない。オートは消えゆく大ワニに向けて、せめてもの手向けとして祈りをささげた。
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