第6話 移動
オートが目覚めた廃屋は、そこそこ山奥にある建物だったというのが分かった。
つむぎを背負ったハクトと紺色の髪の男は、まるで忍者のように樹づたいに森を飛んでいた。
一二三を抱えたオートも同じように着いていく。自然の中の方がソサリウムが多いと聞いてはいるが、こうも速く動いていては違いが全く分からない。
山を超えると、今度は電信柱を足場に移動していく。
オートの眼下には街の明かりや、路上を走る車の前照灯などが地面一杯に広がっていた。普通の人から見れば日常の光景も、少年からすれば星の海に見えるくらいだった。
次元で生まれたと考えている今の彼にとって、知識はあれど経験は無い。本当に此処には沢山の人間が居るのだ、と改めて実感させられるような場面だった。
前を飛ぶ二人の背中を見て、オートは改めて男子二人の存在について疑問を持った。
まだ彼はハクトと紺色の男について、何も聞かされていなかった。女子達は魔法少女という、魔法の国の協力者のような立場。二人は、その男性版という可能性もある。
仮にそうだとしたら、何故に違いが現れたのだろうか。少年は考え事で頭を使ったが、全くの無自覚だった。
女性陣は次元から出ると、髪の色が黒く戻った。そして、三つ編みの少女は今ハクトに背負われて行動している。
二つの状況を鑑みると、彼女達は次元の外では普通の人間だという可能性が浮上する。
当たり前のようにオートは着いてきているが、普通ならばこんな人間外れした動きが出来るなんて思いもしない筈。
にも拘わらず、紺色は少年に来るように促した。この事実関係をまとめ上げたうえで、オートは一つの結論を見出した。
男二人は魔法少女じゃなくて、限りなく自分に近い存在かもしれない。
炎を出しても誰一人として動じなかった時点で、オートは気づくべきだった。
長きにわたる次元生活のお陰で、かなり常識が抜けていたのを少年は認識していなかった。普通の人間だと思うならば、能力を使った時点で何かしらの反応を示すものなのだ。
そこまでオートが考えていると、目の前の紺色が何か合図を出した。
それを受けたハクトは、つむぎを背負ったまま吸い込まれるようにビルの屋上へと降り立った。
どうして高い場所を伝って移動しているのか、謎だと思った少年が三人に問いかける。普通に道を歩くより速いし、何よりも人目に付きにくいという返事だった。他の二人なら兎も角、白桃と黄桃の髪色の子供は悪目立ちするらしい。
ビルから裏手に降りた彼らが、真っ先に向かったのは公園だった。
ブランコがあって、鉄棒があって、ベンチが沢山あるような何の変哲もない場所だった。
三人は他の何にも目もくれず、数本居並ぶ一つの樹へと真っ直ぐに向かっていった。他のものと寸分たがわない有り触れた木には、二人の少女が肩を並べて立っていた。
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