第3話 理解


「っていうか、魔法少女って何だよ……」


 ここでオートは、改めて魔法少女という存在に疑問が沸いた。彼女は次元に居る時、三つ編みが水色だった筈。にも拘わらず、今は黒くなっているのが意味不明だった。


「……人を食べる魔獣を浄化する存在」


「俺らは人間なんて喰わねえよ」


 魔獣というものは食べ物を摂取さず、ソサリウムを糧に生きる存在である。熊や鮫などと一緒にされては困るオートは、口答えをするかのような物言いだった。


「……人を殺して、ソサリウムを得るでしょう」


 その行為の際、魔獣は人間の身体ごとソサリウムを得るのだという。


 つむぎの台詞を耳にして、改めてオートは気が付いた。彼は今の今まで、魔獣が人からソサリウムを奪う場面を、目の当たりにした経験が無かったのだ。


 今までの敵の行動を顧みても、オートは全く心当たりがない。弱らせてから食べるという発想は、この時の彼には無かった。それはノイリが、人を捕食しなかったせいでもあった。


「ソサリウムを知っているの⁉」


 ハクトが目を丸くした。この期に及んで何を言っているのだろう、とオートは呆れた表情になった。


「ソサリウム知らんのに火出せるかよ」


「……知らんくても魔法は使える」


 少年の嘲笑に反撃を加えるように、つむぎが迅速に答えた。


 その台詞を耳にして、オートは初めて魔法を使った時の光景が頭に過ぎる。彼女の言う通り、大カエルと戦った際、彼はソサリウムというものを認識していなかった。


「……オートくん。君にそれを教えたのは、いったい誰?」


 口調も表情も変わらなかったのに、つむぎの物言いは尋問のような雰囲気を持っていた。それが気に喰わなかったのだろう、オートはそこで口を閉ざしてしまった。


「…………」


 そもそも名前しか分からない連中に、色々と明かす義理は無い。少年は、まだ二人をそこまで信用なんてしていなかった。


 オートは一二三を自分の方へと呼び寄せて、捕虜にされてしまわないように胴体に左手を置いた。そして彼はいつでも炎を繰り出せるように、二人の方へと右手を突き出した。


「いいから、俺を元の場所に帰してくれ」


 次元から此処に来れたのは、おそらく彼らの能力だとオートは判断した。


 ならば戻り方も知っている筈。二人は少年の脅しに屈するどころか、ハクトの方は心配そうな目を向けていた。


「や、やめた方がいいって……」


「それはこっちの台詞だっての」


 ハクトが何を言いたいのかを理解せず、オートは同じ姿勢のまま二人の方へと目を向け続けている。


「……人間世界はソサリウムの宝庫だけど、比例するように魔力消費も大きくなる」


 無表情のまま、つむぎは無機質な声をオートに投げ続ける。


「……つまり森の中でもない限り、消費した魔力を補える程のソサリウムは手に入らない」


 彼女の声を耳にした瞬間、オートは以前言われたノイリの言葉を思い出した。


 人間を襲う一部の魔獣は、次元という場所に誘い込んで捕食をする。


 大気中に含まれるソサリウムの数は、人間界の方が多いのだが、魔力の消費の量が違う。


 次元は魔法や魔獣の国の延長線上にあるため、特有の磁場が働いている。人間界においての魔力の顕現は、次元における消費の倍は費やしてしまうという。


 オートは一二三から左手を離し、二人に向けていた右手も引っ込めた。


 そして昨日の行動を思い出し、倒れてしまった理由を把握した。どれだけ自分が忘れっぽいのか、理解した少年なのだった。


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