第10話 欠


「……そろそろだな」


 紺色の男が呟くと、それに合わせたかのように周囲の景色が変化した。まるでアイスが溶けるように、グレーの空が落ちていく。


 初めての光景にオートは両目を擦ってみると、あっという間に周りの景色は変化した。


「はぁ⁉」


 いきなりの出来事に、少年は驚きを隠せなかった。


 地面は土だし、樹木は生えているし、何より天が夜空で星が煌めいていた。


 四方がフェンスに囲まれているのを見ると、まるで公園のような場所だった。


 ベンチや水道といった人工物の存在は、人間世界としか思えない。


 オートは二人の男と、三人の少女の顔を見る。誰もが全く動じていなかったから、却ってそれが少年を更に混乱させる。


「……あれ、魔獣も結界から出れてる」


 水色の服の女の子の声を耳にして、オートは一二三の方を向く。ちゃんと相棒も着いて来てくれた安堵を覚えたが、それで済む話ではない。


「こ、ここっ! 何処だ⁉」


「東京都だけど……」


 オレンジ色の服の女の子が平然とした顔で言ったから、オートは恐怖に心が縛り付けられた。


 ふよふよ浮いていた一二三を抱き寄せ、左手を向けて少年は五人と対峙した。彼の行動が理解出来ないのか、オート以外の全員が呆気に取られたような顔をしていた。


「お、お前ら! 本当に何者なんだよ⁉」


 威嚇としてオートは、手の平に炎を出現させた。


 いつの間にか私服になっていた三人の少女をかばうように、ハクトという根元ピンクと紺色の男が立ちはだかる。


「……おいおい、大丈夫なのかよ。それ……」


 意外にも紺色は、呆れたかのような顔をしていた。もう一人は何やら心配そうな表情を向けていたので、オートは何がなんだか理解が出来ない。


「……見とけ、ハクト。ここで魔法を使うと、どうなるのか」


「だ、大丈夫なの……?」


 男二人が言った台詞が妙に気に掛かったが、相も変わらずオートは頭を使うのが苦手だった。


 脳が茹だりそうになったかもしれない、と思った少年の推理は実に見当外れなものだった。


 まるでガス欠になったかのように、少年の手の平にあった炎は一瞬にして消失した。


 そしてオートは目の前が真っ暗になってしまい、その場で膝をついてしまった。体中に倦怠感が襲い掛かり、重しをつけられたような気分になった。


 落ち行く意識の中、彼は以前にも似たような状態に陥った記憶が蘇った。


 少年が魔獣になったと自覚する前、大カエルと戦った直後の出来事だった。当時は知りもしなかったが、後にノイリに魔力切れによるものだと指摘された時の話だ。


 これだけで魔力切れとか、ありえないんだけど。捻り出そうとした少年の言葉は、口にする間もなく眠りの中へと消えていった。


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