第7話 蛸
落ち行く光が消え、道は風を見失った。感情は湾曲を迎え、現在を塗りつぶす。穏やかな微笑を引き換えに立ち尽くすと、背中でまた一つ希望が溶けていった。廻る世界の何処かで朽ち果てるものならば、満たされない光源が自分の指で写し出せれば、不満など覚えなかった。道しるべとして上がる陽は無くて、完璧な虹彩というものも日々には無い。誰かの過ち、悔いが意味を持たせるのならば、空に響いた音色が情景を作り出せるといえよう。残響信じて共鳴に残した最後は、上昇する風に乗せ根本を現した。経過した時を見直すように手を伸ばせど、指の隙間から零れ落ちていくばかりだった。
これからを鮮やかに彩る為には、どんな絵具を毎日に残せるか。空の色に染まる世界が美しいのならば、自分の作り出す影を周りに木霊する形も存在していたのだろう。閉じた記憶の底に手がかりを見出だすように、生命の歪みを網膜に焼き付ける。限られた動きと封じられた声と、儚い全ての視界が鍵として存在する可能性もあった。痛みを消すか、希望を落とすか。どちらも得られない立場になった場合、他の選択肢を作れるか。この時の誰しもが、正確に捉えられる筈も無かった。
少年は時間の分かるものを持っていなかった。
そもそも次元という場所には、人工物というものが無い。故に人が作り出した『時』という概念に、誰しもが囚われていない。
オートは長い時間飛ばされているように思えた。
彼は一度気絶して、意識が戻った時もまだ空中に飛ばされていた。ここが地球のような球体である場所ならば、一周してノイリの居る場所に戻れないかとも考えた。
大気は壁になってくれず、いつまで経っても勢いは収まらなかった。風圧のせいで全く踏ん張りが利かず、姿勢変更もままならない状態。
一二三はずっと背中に張り付いてくれているが、これも向こうの意思ではないのだろう。どこまでも流れる景色の中、何かが止めてくれるのを待つしか少年には出来なかった。
もしかしたら、俺は一生このままなのか。自分で描き起こした想像に、少年が顔を青くしたその時だった。
彼の背中に弾力が走り、跳ね返されるように地面へと投げ出された。
背中に一二三が居るとはいえ、岩か何かに当たったにしては衝撃が無さすぎる。転がるように着地したオートは、放物線を描いて飛んで来た一二三を受け止めた。
一体何にぶつかったのだろうか。顔を上げた少年の前に居たのは、一二三の倍くらいはある大きなタコだった。
大きなウメボシのような頭に、爬虫類のような鋭い瞳。触手にある吸盤は、レンコンの穴のようにビッシリ付いていて。それの存在が、奇妙さを増幅させる。
アニメや漫画なんかの絵は、どれだけ簡略化されているか分かる見栄えだ。
腕をこっちに振るったものだから、敵意があると少年は見做した。
止めてくれたのは感謝しないといけないが、攻撃してくるならばやるしかない。息を吸い込んでソサリウムを取り込み、オートは十秒を数え始めた時だった。
一瞬にして、目の前の大ダコの姿が真っ二つになった。
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