第3話 名


「そういうことって、あるのか?」


 オートの問いにノイリは微笑みで答えた。魔獣も同じ生きる者で、ちゃんと意思というものを持っているのだという。


 少年は僅かな違和感を覚えるが、考えるのは苦手なので止めておいた。とにかく今は、目的を共にする仲間が増えたという解釈に留めておいた。


 名前はどうするか、という彼女の問いにオートは気乗り薄な表情を浮かべた。


「キノコでいいんじゃ?」


「この子クラゲよ?」


 クラゲに別の植物の名前をつけるのはおかしい、とノイリは頬を膨らませた。正確に言えばクラゲではなく、それを模した魔獣だが、少年は知る由も無かった。


「名前ってそんなもんじゃないのか?」


 現にオートの名前は黄桃から取られている。彼は元人間の魔獣であって、髪が桃と同じ配色なだけなのだ。


「だからってキノコは無い」


 そこまでいうならノイリが名前をつけろ、と少年は言った。自分の時もそうだったが、彼は呼称に拘りというものを持っていなかった。彼女は首を左右に振った。


「オートはあたしが発見したから名付けたけれど、この子はオートが見つけたのよ」


 ノイリに発見された覚えは欠片も無かったし、クラゲも見つけたというより現れたといった感じに少年は思えた。しかし何となく彼女の言っている話も真っ当な気がしたから、仕方なくオートは頭を働かせる。


 キノコがダメなら、どういう名前がいいのだろうか。


 少年は昨日の出来事を片っ端から、頭に浮かべ始めた。親クラゲに火の玉を投げたら、子クラゲが生み出された。一体ずつを処理していって、最後に親玉を始末した。新しい攻撃方法も開発した。威力を上げる為に、頭の中で数を測った。


「……一二三(ひふみ)っていうのは?」


 少年は十秒を数える為に頭の中で、ひぃふぅみぃという単語を繰り返した。


 あの戦いで一番残っている単語だったから、オートは何となく名前として案を出してみた。ノイリは鳩が豆鉄砲食らったような表情になっていた。


「ど、どうした?」


「……オートにしてはセンスあってビックリ」


 褒められているのか、馬鹿にされているのか全く分からない。反応に困ったオートは、どういう顔をしていいのか分からなかった。


 こうした紆余曲折をえて、無事にクラゲの名前は決まった。


 次にクラゲは戦えるのか、という話になった。そもそも二人の言葉は通じるのだろうか。一二三の話をしているにも関わらず、当の本人は何もせずに周りを漂っているばかりだ。


「こればっかりは戦闘になってみないとわかんないね」


 ただでさえ今はノイリを戦いに加えないように躍起になっているのに、非戦闘要員が増えるのは少年としても喜ばしくない。


「きっと、大丈夫」


 ノイリが柔らかく微笑んで、漂う一二三をそっと撫でた。彼女の発言に根拠というものは無かったが、これ以上の議論はきっと無駄なのかもしれない。


 とりあえず少年は、ノイリを信じる以外の手立ては無かった。どの道、他に出来ることなんて無いのだから。


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