五日目

第1話 弾


 ただの都合が幾つかの気持ちを洗練させて、まだ向こう側の日がそれを募らせる。踏みしめる平地を辿って、周り行く景色を望んで、変わっていく境界の先。それが何処かは、理解していた。いつも答えを探していた筈で、そっと触れたような気がして。そんな想いは二度とご免だったが、どうしようもなかった。二つ目の自分の世界を探し出したい気持ちも忘れて、切り替えるものすら見当たらなくて。辿る景色すらも、奥底から消した。夢の発端に入る陽光が照らす輝きは眩しすぎて、目の前で踊る空気はどこまでも澄んでいて。再び目を閉じると、無くなってしまいそうな気がした。


 下らない口頭や耳にする空想をかき消しても、無くした時の記憶が薄れいく訳が無かった。満たされた構造と脳裏に浮かぶ表情が、どこまでも焼き付く夜だった。いつの間にか幻想は、精錬を研ぎ澄ました構想となっている。逃せない好機の筈なのに、戸惑いが迷いを生み出し続けている。草の根かき分け、見つけた何かを、手放したくない気持ちがあって。導き託した音色が、どこまでも頭に響いていた。ここにある想いと拾い上げた気持ちが、一つに重なれば都合がいいに決まっていた。変わらない唯一の選択が、世界を越えるつもりでいた。その手で紡ぎ出す、音の総てを吸い込んで。


 目覚めたオートは、今までに無いくらいの幸福感というものに包まれたから不思議で仕方なかった。


 いつもはガチガチの硬い地面で、凝り固まった関節を鳴らしながら起きる。それなのに今日は、何やら全身が柔らかいものに包まれていた。


 隣から息づかいが聞こえたので、上体を起こして音の方へと目を向ける。ピンク色の髪の少女が、ゼリー状の何かの上で心地さそうに寝息を立てていた。


 見ると、自分も同じ何かに身体を預けていたのに気が付いた。透明でブヨブヨとした感触を右手に、少年は左手で目を擦った。


 夢心地なノイリの表情から察するに、何か自分達に害をなすようなものではないと少年は見做す。


 しかし昨日まではこんなものは無かったし、今まで似たようなものも御目に掛かった記憶が無い。顎に手を置いてオートは思考を巡らせるも、やがて頭が痛くなる。


 少年は再びゼリー状の何かに身体を預け、軽く力を抜いてみる。少しづつ、胴体が埋まっていくような感触を覚えた。


 彼女の方に目を向けると、小柄な胴体が半分沈んでいるのが分かった。


 オートは少しだけ、手の甲でゼリー状の何かを押してみる。粘度というより弾力のある代物だったから、決して手に何かがこびり付いたりはしなかった。


 今まで次元において彼は人工物を何一つとして見かけなかったので、最初からその可能性を持っていなかったのだ。

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