第7話 海月


 ノイリに抱えられたまま、地面へと少年は降ろされた。


 今の声が聞こえていたということは、鼓膜が元に戻り始めている証拠だった。しかし体力は未だに回復の兆しは見れず、オートは立つのに精いっぱいだった。


 このまま眠りに落ちてしまいたいが、それが出来ない理由が彼にはあった。目の前には、まだ数十体の子クラゲが浮いていた。


 大物が消えてしまっても、小さい方は健在だった。これから少年は、後始末という仕事が残っていた。


 ハクトが子クラゲの群れと対峙すると、彼らは今までとは全く違う動きを見せた。


 ふよふよと空中を漂いながら、固まるように身を寄せ合い始めた。散り散りを一体ずつ始末するよりは、集まっていてくれた方が都合が良いので、少年はその様子を黙って見ていた。


 結果として、数十体の個体は合体して一つの中クラゲへと姿を変えた。


 二メートルくらいの大きさはあったが、今の戦闘で戦った親クラゲの三割程度。これなら残存魔力でも、何とかなるだろう。今度こそ少年は、相手が動くのを待った。


 すると中クラゲは身を翻して、手足のような触手を伸ばして地面へと突っ伏した。


 広げた透明な身体を見ると、まるで零した液体のようだった。これも何かの攻撃手段なのか、少年は困惑の表情をノイリに向けた。


「降参かなぁ?」


 彼女が肩をすくめて言ったが、それが何を意味する言葉なのかオートには全く分からなかった


「もお攻撃の意思は無いみたいね。殺すも生かすも、オート次第」


 そういうことって有り得るのか、と彼は困惑した。今まで例を見ない光景に、オートはどうしていいのか戸惑った。


「ノイリは?」


 彼女に判断を託そうとしたが、ノイリは肩をすくめるだけだった。


「オートが倒したんだから、オートが決めなよ」


 どうしたものか、彼女の台詞を聞いたオートは頭を抱えた。


 ここで逃がして後で脅威になったらコトだが、敵意が無いなら倒す理由が無い。


 そこまでソサリウムも得られないだろうから、ノイリも無理に始末する必要を覚えなかったのだろう。


 ならば少年も、それでいいと思った。彼は考えることが、大の苦手なのだ。だからオートは、こう判断した。


「じゃあ……とにかく今は寝かせてくれ……」


 その場で膝を着いた少年は、夢の世界への逃避を選択した。


 オートが意識を失う寸前、柔らかい何かに包まれたような感覚があった。その正体が近づいてきたクラゲの身体だと、少年は目が覚めても気づかなかったのだった。


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