第5話 攻撃
「なに今の⁉」
ノイリの驚愕が耳に入った少年は、こっちの台詞だと心の中で答えた。
一体を倒したところで電撃の雨が止む筈も無いので、オートは動きを止められない。舌を噛む恐れがあるので、口が開けなかった。
今し方の流れを少年は頭の中で反芻した。息吹を止めて、十秒数える。苦しさを覚えた辺りで息継ぎをする。その拍子に指を弾いただけだった。
おそらく自分の身体の中の魔力やソサリウムが、何かしらに結びついて爆発的に威力が上がったのだろう。具体的な話を求められれば、少年は明確に返答は出来なかった。
ただ一つだけ、分かっていることがあるとすれば、魔法の使用領域が広がった筈。オートは息を呑んで、再び心の中で一から数え始める。
目の前の雷撃を避けながら、息を止めつつ、計数を始めるのは容易では無かった。
集中力というものが、分散されてしまう所為だ。
目を凝らして、空気を遮断し、時を数える。これだけを動きながら行うせいで、何かしらの失態を犯す恐れが付きまとう。
薄氷の上を歩くように、見えない何かが肌を撫でているような感覚でいた。オートは背中に嫌な汗をかきながら、息継ぎと共に指を弾いた。彼の先の子クラゲは、爆発と共に姿を消した。
大量の子クラゲが全部で何匹居るかなんて、今の彼にはどうでも良い話だった。重要なのは相手か自分の魔力が切れる前に、決着を付ける必要があるだけ。
此処で勘違いしてはならないのは、飽く迄も最終目標は大クラゲの始末だ。いま少年が相手にしているのは、親玉を始末するための下ごしらえでしかない。
五体目を爆散させたところで、好戦的な個体を全て片付けたのに気が付いた。
ここでオートは、息が上がり始めていた。心臓の鼓動は耳に伝わる程で、普通に立っていても息を整えるのに精一杯だ。まだ数十体の子クラゲは残っていたが、先ほどよりも電撃の頻度は下がっていた。
相手を観察し続けた少年は、ここで攻撃の前兆というものを完全に捉えていた。
敵の攻撃の発動は、音で判断が可能だと理解した。電撃を放つ際、準備動作なのか、バチバチと僅かな音が鳴る。
耳にした瞬間に動いてさえいれば、完全に回避が可能となる。聴覚を頼りにすれば、以前と比べて無駄に動き回る必要が無くなったのだ。
最小限の動きで電撃を避け、心拍数を整える。余裕の出てきたオートは、ここでようやく大クラゲの方へと目を向けた。
高度は変わっていないが、僅かばかり距離が遠くなってしまっていた。これは少年が無闇に動き回っていたせいで、自ずと離れてしまった結果だった。いつの間にかノイリも大岩の上に腰掛け、観戦状態へ移行していた。
恐らく長期戦と化してしまっていると考えると、これが最後の好機の可能性があった。
少年が一番恐れているのは、再び子クラゲを増産されることだった。またもや地獄のような動きを強いられる上に、痺れを切らしたノイリが参戦してくる確率が高い。
とはいえ、少年には対空手段が無い。どう、蹴りをつけようか。頭を捻ったオートだったが、新しい武器を手に入れていたのに気が付いた。
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