第4話 個体
グレーの空に浮かぶは、落下傘のような大クラゲ。透き通った丸い身体の中には、放射状の線だけが薄く光っている。
そこから真下には、同じ形状の子クラゲ。降り注ぐ雪のように四方八方へと散らばっているが、どれも黄桃色の少年に向かって電撃を放っていた。
とにかくオートは、身体を動かすのを止めなかった。光速という言葉があるように、電撃の動きは目にも止まらない。
僥倖だったのは、一発の威力が小さいことだった。いの一番で少年が大量の攻撃を受けたが、あれは同時に放たれたものではなかった。
子クラゲは誰かが攻撃したら、それに倣うように追い打ちをかける。
すなわち一発目を受けても、堪えて動けば追撃を喰らう確率は減らせる。足止めを受けない方法として、彼は足を止めない手段を用いたのだ。
相手の動きを観察し続けたオートは、何体も居る子クラゲにも個性があるのを理解した。
好戦的に少年を追い続ける者、誰かの後に着いていく者、じっと待って機会を狙う者。その有りさまは、まさしく三者三様だった。
行動に規則性のようなものを見出したオートは、ここで反撃が出来る余裕が生まれた。
まずデコピンの空振りをするように、弾いた指を近づいてくる個体に振りかざす。燐寸程度の火が目標に命中するも、撃ち落とすには至らない。ある程度は威力が弱いのは、少年も想定していた。
一斉に全てを焼き尽くすか、一体ずつ倒していくか。
可能性として厄介なのは、増産されることだった。数を減らしても、また産み出されたら面倒極まりない。
長期戦で相手の体力が減ってしまえば、それだけソサリウムも減ってしまうらしい。とはいえ、子クラゲの攻撃も、無視できるような威力ではない。
故にオートは、始めに好戦的な個体から始末していこうと考えた。
ひたすら追う性格の者は、とにかく攻撃までの動きが早い。無闇矢鱈に電撃を撒き散らすせいか、だからこそ厄介だった。
下手な鉄砲も数撃てば当たるように、速度のある仕掛けを頻繁に向けられるのは、少年にとって苦痛でしか無かった。照準を合わせなくとも、行動の間隔が短ければ、被弾の確率は跳ね上がってしまう。
どうにかして、自分の攻撃の威力を上げる方法は無いか。少年がそう考えた時、脳裏を過ぎったのは先程の訓練だった。
魔法の大きさは魔力消費に比例する。
消費が多ければ血の巡りも早くなっていく。
血の巡りが早ければ、それだけ取り込んだソサリウムが魔力に変わる速度も上がる。
息を止めている間は、魔力生成の速度も上がるのかもしれない。
深呼吸をした少年は、息を止めて脳内で数を測り始めた。
ひぃ、ふぅ、みぃ。四方から来る電撃を避けながらも、オートは固唾を飲み続ける。頭の中の数字が十に達した時、彼の指が一体の子クラゲへと向けられた。
一瞬にして、その個体は爆風へと姿を変えた。今しがたと同じように指を弾いただけだったから、少年本人が一番驚いていた。
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